<ライブコマースは引き続き流行る>
黒田:2024年に注目しているECサービスを聞いていきたいと思う。
坂本:個人的にライブコマースが引き続き流行すると思う。以前、取材した芸能人の北斗晶さんと西山茉希さんのライブコマースを見てから、その場でモノが売れていく環境に驚きとともに可能性を感じた。
パロニムが提供する店舗でスマホ撮影して、ブルートゥースで接続するだけで配信可能なライブコマースのツール「Tig LIVE」もある。商品のバーコードを読み込んだだけで、視聴者に商品情報を表示して、そのまま購入を促すことができる。
視聴者が「これ映してください」「これどのような感じですか」と言ったときに、それをすぐその場で映す。視聴者が「ほしい」と思ったときに、即座に買えるところが面白い。
手塚:ライブコマースのコンテンツをアパレル企業もうまく活用している。商品ページの下部にライブコマースの動画を埋め込んでいる企業も多い。
ライブコマースの動画は、商品ページのコンテンツとしても二次利用できる。ライブコマース中にその場ですぐに買ってもらうのは難しいと思うので、うまくライブコマースで成功している企業はそのような活用方法もしているのだろう。
黒田:私もライブコマースには引き続き注目している。個人的にライブコマースで売り上げを作れる企業は、効果的な活用方法を心得ている。
コロナ禍にライブコマースを活用する企業は増えたが、「ただ配信するだけ」も多い。配信することに全てのリソースを集中している企業が多かったイメージだ。
アフターコロナの現在では、それだけで売り上げを作ることは難しい。ライブコマースで成功している企業は、ライブコマース配信前、配信中、配信後の3軸で対策している。
ライブコマース開始日程をSNSで投稿したり、インフルエンサーに投稿を依頼したりして、視聴を見逃させない。配信中では、きちんと視聴者と会話を楽しんで飽きさせない。そして配信が終わったら、二次利用として活用する。
ライブコマースで分かった情報を生かさないのはもったいない。そこで得た情報を生かしていかに有効なクリエーティブを作れるか。ここが鍵な気がしている。
ライブコマースのコンサルティングなどを行うTailor Appの松村夏海代表も、「近年のライブコマースは、ライブコマース中ではなく、ライブコマース終了後にいかに売り上げを増やせるかという段階に入っている」と言っている。
<大手からECサイトの動画化が加速>
手塚:ライブコマースのコンテンツ活用も進んでいるが、ECサイトの「動画化」が浸透しているなと思う。商品ページに商品紹介動画を埋め込むサイトが増えていることで、いろいろな角度から商品を確認することができる。ファッション系だとユニクロが動画活用の代表例となっている。
2024年から、大手企業を中心にECサイトの「動画化」が当たり前になっていくだろう。「visumo(ビジュモ)」などECサイトに動画を簡単に埋め込むことができるツールも活用が進んでいる。
ECサイトで商品紹介動画を見ることに慣れてしまうと、静止画だけだと、つまらない感じに、”見劣り”してしまう。視聴者がいろんなブランドを横断的に見たときに、「このブランドの商品画像は動かないから、ちょっとつまらない」という風に思われてしまう可能性が出てくるなと感じている。
【記者が考える2024年のキーワード】
▲坂本凪沙記者
「ライブコマース来るか」 商品ページに配信動画を埋め込み、ライブを視聴しなかった人にも訴求できる。アパレル以外でも広がる予感。
<2024年は中小企業が使えるAIが普及>
黒田:最近だと、ECのAI活用も進んでいる。
手塚:2023年の初頭から、生成AIなどの新しいサービスが台頭した。便利なサービスが徐々に出てきて、多くの人が利用するようになっている。
2023年の後半には、楽天グループやGMOインターネットグループが、生成AIを使った汎用性の高い、中小企業でも使えるサービスの提供を開始すると発表した。まだ具体的なサービスは出ていないが、そのような動きは、2024年以降、どんどん出てくるはずだ。
中小企業でも生成AIなどを巧みに使えるようになると生産性向上につながる。人件費の高騰もうまく吸収できると思う。
<メタバースECにも確かな可能性>
黒田:酒井さんはどうか?
酒井:メタバースに可能性を感じている。2023年初頭にはKDDIがαU(アルファユー)を発表し、同10月にメタバースECを開始した。
メタバースに関してハコスコという注目企業もいる。先日、大日本印刷が子会社化したのだが、ハコスコはVTuberをインフルエンサーとして活用し、メタバース内でイベントを実施した。
そのハコスコがサザコーヒーと協業してVTuberを起用して、「1日カフェ」みたいなのをメタバースで実施した。個人的に面白い取り組みだと感じている。対面の接客だと気を遣うが、メタバースだとふらふらと、ほど良い距離感を保てる。一定のニーズはあると思う。
黒田:アパレル大手のパルは一昨年、KDDIのメタバース空間「バーチャル渋谷」に出店した。パルの堀田覚氏によると、なかなか購入につながりにくかったという。来場者数には手応えはあったが、最終的な購入につながるところは足りなかったと話していた。
分析をしていくと、10代後半から20代初めくらいの若い層が来てくれるが、その層は積極的な商品購入にはつながりにくいと言っていた。確かにその層は金銭的に余裕がある人は多くない。
来年、再来年ははやらないかもしれないが、5年後、10年後で見ると、今から仕込んでおいたほうがいいだろう。将来的にメタバースのようなバーチャル空間は一般化するはずなので、そのときに備えることが重要だと感じる。
手塚:ライブコマースもメタバースも、コンテンツが重要になる。ライブコマースは成功事例が出始めてきているが、メタバースはまだ成功事例が少ない。
先ほどのVTuberを活用するなど、成功事例が出てくると、多くの企業がまねしてやるようになり、そうすると、メタバースの可能性は広がる気がする。
【記者が考える2024年のキーワード】
▲酒井琴音記者
「体験価値がより重要に」 パーソナライズした情報提供やサイトの没入感など、長期の物価高の状況でも購買意欲をかきたてる取り組みがさらに加速するだろう。