東京大学(東大)、京都大学(京大)、江戸川大学、筑波大学、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の5者は1月18日、系統的レビューと要素ネットワークメタアナリシスを実施し、不眠症の認知行動療法の有効な要素を明らかにしたことを発表した。
同成果は、東大 医学部附属病院 精神神経科の古川由己特任臨床医、京大大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康要因学講座 健康増進・行動学の坂田昌嗣助教、江戸川大 社会学部 人間心理学科の山本隆一郎教授、筑波大 国際統合睡眠医科学研究機構の中島俊准教授(NCNP 認知行動療法センター室長兼任(研究当時))らを中心とした、国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国医師会が刊行する精神科に関する全般を扱う学術誌「JAMA Psychiatry」に掲載された。
睡眠はヒトが生きていくのに必要な行動であり、十分に取れないと、心身共に不調を来すようになる(命に関わる場合もある)上、精神疾患を発症するリスクも高まるとされる。そんな睡眠の障害である不眠症には、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める)、早朝覚醒(早朝に目覚めて二度寝ができない)などの問題がある。その結果として、日中に倦怠感や意欲の低下、集中力の低下、食欲の低下といった不調を及ぼしてしまう。不眠症は人口の4~22%に見られ、なかなか寝付けないといった一時的なものであれば経験する人も多く、身近な障害といえる。
不眠症の治療法として、その有効性と安全性から第一選択とされているのが「認知行動療法」(CBT-I)だ。しかし、CBT-Iは複数の要素の組み合わせからなっており、実はどの要素が有効なのかはわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、CBT-Iの各要素の有効性について推定を試みたとする。
今回ははじめに系統的レビューを行い、公表されている臨床試験に関する論文の中から、成人(18歳以上)の不眠症に対する治療法として、CBT-Iと別の手法、あるいは対照群とを比較したランダム化比較試験の論文を収集。241のランダム化比較試験(3万1452名の参加者)が抽出された。包括的な系統的レビューを行うことで、先行研究の2倍のランダム化比較試験を見つけることができたという。
次に、要素ネットワークメタアナリシスを用い、これら241のランダム化比較試験を解析し、要素ネットワークメタアナリシスをCBT-Iに適用することで、CBT-Iの各要素の有効性が明らかにされた。
その結果、これまで単独での有効性が示唆されていた睡眠制限法(横になる時間を短くすることで深く眠れるようにする)と、刺激統制法(寝床と睡眠の関連付けを強くすることで眠れるようにする)に加え、認知再構成(不眠に関する有害な思い込みを和らげる)やマインドフルネス(不眠への不安を受け入れる)、対面提供(セラピストが対面で治療する提供方法)の有効性が示されたとのこと。その一方で、睡眠環境を調整する睡眠衛生指導や、筋肉を意図的に弛緩させるなどのリラクゼーション法の有効性は示されなかったという。
研究チームは今回の研究成果を踏まえ、有効な要素を含み、有効でないものや逆効果なものを省略した、効果的かつ効率的なCBT-Iプログラムの開発が期待されるとする。また簡便なプログラムを開発することで、治療を受ける方の負担が減るだけでなく、治療を提供できる人材の育成にも貢献することが期待されるとしている。