コロナ禍からの経済活動の正常化を受けて、金融庁は今春に監督指針を改正し、地域金融機関に取引先の中小企業の事業再生の取り組みを強化するように求める。
「資金繰り支援に注力した段階から、一歩先を見据えた事業者の経営改善支援に取り組む新しいフェーズに移行する必要がある」(鈴木俊一財務相)と考えるためだ。過剰債務を抱える融資先に対して、安易な返済猶予を繰り返して経営問題を深刻化させることがないよう、地銀や信金などが債権放棄を含む抜本策を講じるように促す。
新型コロナが流行した20年春以降、金融庁は企業の資金繰り支援に万全を期すよう金融機関に求めてきた。資金繰り破綻を抑えるのが目的で、金融機関には既存の融資の返済猶予を促すとともに、政府保証付きの実質無利子無担保の「ゼロゼロ融資」を広範に提供した。
だが、経済が平時モードに完全に戻り、一部企業の間ではゼロゼロ融資の返済も始まったことから、監督指針の改正案に「資金繰り支援にとどまらない経営改善支援や事業再生支援等について、先延ばしすることなく実施する必要がある」と、金融行政の軸足を大きく転換。
足元ではゼロゼロ融資の反動も出ている。東京商工リサーチによると、20年7月から23年11月までのゼロゼロ融資後の倒産件数(負債額1千万円以上)は前年同期の1.4倍増。経済活動が再開して客が戻っても、食材費・光熱費の高騰や人手不足による賃金上昇などで経営苦境が深まるケースが目立っているという。
ただ、各地域金融機関とも再生事業に投じられる人的リソースには限界もあり、全ての取引先に対応することは難しい。多くの地銀や信金はコロナ禍を理由に過剰債務に陥った企業向け融資を「正常債権」に区分しており、債権放棄や倒産に備えた貸倒引当金を十分に積んでいないと見られる。
金融庁は企業金融面から「脱コロナ」を進め、日本経済の体質強化を図りたい考えだが、地域金融機関側が一定程度の損失を覚悟した上で企業再生にどこまで乗り出すかが焦点となる。