<コネなく誠意でアニメの版権獲得>
黒田:「注目のEC事業者」について話を聞いていく。佐藤記者はどうか?
佐藤:アニメ系の会社ですごく面白い社長がいた。資金を含め何もないところから、企画をして実現したとのことだ。アニメ系というと、なかなか版権などライセンスが取れないそうだ。そこの社長は、もともと眼鏡屋の店員だったのだが、コネやつながりなど何もない中で、コンスタントに連絡をとり、眼鏡を作りたいという誠意を見せて、版権を取ったというところが面白かった。
アニメは小さい会社でも、コンテンツが大きかったり、それが1回ヒットすると、一気に認知度が上がったり、売り上げにつながるという点が面白いと感じた。
黒田:アニメとのコラボは、社長同士の仲が良かったり、つながりがあったりして実現するというのが私の取材先でも多い。だが、熱い思いと泥臭い営業力とで結びついたというのが印象的だ。
佐藤:人気アニメ「Fate(フェイト)」や仮面ライダーなど、10年くらいで、約400モデルの眼鏡を作ったとのことだった。秋葉原の実店舗には海外の顧客も多く訪れるそうだ。池袋の店舗は、コンセプトがしっかりしていて、スタッフさんがみんな執事の格好している。お茶とお菓子でもてなしながら、執事のような接客でメガネを販売するなど、店舗でも差別化を図っていた。
ただ、秋葉原店でもそれをやると、初めて日本に来た人が、「眼鏡屋さんってみんな、こんな格好で接客するのか」と思われてしまってもいけないので、秋葉原店はもうちょっとポップな感じで運営していると言っていた。
<食品なのに青を使用したブランド>
酒井:BAKE(ベイク)に注目している。プレスバターサンドやチーズケーキなど、駅ナカなどでよく販売している企業だ。「ECを強化しよう」となったというのが、食品業界で大きなニュースになっている。
このBAKEの「しろいし洋菓子店」という新ブランドが面白い。ブランドサイトを開くと、お菓子なのに色が青い。青というのはあまり食品には使われない色だが、おしゃれな色ではある。そういった色を使って、おしゃれなおとぎ話調にしたという点が面白いと感じた。実際、味もおいしい。作っている様子の画像や、商品のストーリーで、気になってECサイトを読み進めてしまう。日本には、人員不足で、店舗スタッフを確保しづらいという課題もあるので、2026年までにEC化率30%を目指すとのことだった。
黒田:食品業界を回っているとき、BAKEが新しいブランドを出すというのは、噂で聞いていた。サイトのつくりや凝り方にも注目が集まっていた。「しろいし洋菓子店」で調べてもらうと、普通の食品菓子のECサイトとは違う作りで、ブランドコンセプトがうまくできているなと思う。ブランディングがうまいと感じた。コロナで店舗の売り上げが厳しいとのことだが、新たなECサイトで、売り上げが回復し、今後、伸びていくきっかけになればと思う。
【記者が考える2024年のキーワード】
▲三浦翔記者
「SNS認知」 広告費の高騰が続く結果、通常の広告は減り、SNSなどで認知拡大を目指す企業がますます増える。
<男性社長が女性下着の問い合わせ対応>
坂本:私がすごいと思ったのは、女性用補整下着を販売するヘブンジャパンの松田崇社長だ。もともと学生のときに、焼肉屋でアルバイトをしていて、そのときにお客さんに喜んでもらったのがうれしくて、事業を始めたとのことだった。
最初は1人だったので、男性でありながら社長自ら、お客さんからの下着に関する問い合わせにも対応していたらしい。だが全然知識もないから、お客さんにヒアリングしながら、やっていたようで、徐々にお礼の言葉とかレビューも増えていったとのことだった。そういった声を自分で聞きながら、男性で分からないなりにも学んでやるというところが、個人的にすごいなと思った点だ。
黒田:下着をECで買うというのは、ちょっとハードルが高いかなというふうに思うが。
坂本:女性もちゅうちょするというか、サイズ感なども分からなかったり、不安があったりすると思う。そこでヘブンジャパンではオンラインフィッティングに力を入れているようだ。買わなくても、フィッティングサービスは受けられるし、サイズが合わない場合は、全額返金も可能とのことだ。
<購入者に社長自らお礼の電話>
黒田:私はみそ汁のD2Cをやっている、ミソベーションという会社に注目している。中小規模の会社で、社長が購入してくれた方にお礼の電話を必ずしているそうだ。「2週間でこの日」みたいな感じで、過去に購入してくれた人に対して電話するといった形だ。お礼の電話プラス、広告や流入元、広告のどの言葉にひかれたか、ほかにどういうサービスがあったらいいかなど、サービスの改善につながるようなことを聞いているようだ。大手だとコールセンターが、こうした聞き取りをすることはあるが、社長から直接お礼の電話が届くのは、私だったらうれしいなと感じる。地道なCRMを、サービス刷新につなげ、ロイヤルカスタマーを作っていくというやり方は、うまくて面白いと感じた。
三浦:私はペットECをよく取材しているが、2023年はフレッシュドッグフード「ココグルメ」を販売するバイオフィリアが目立っていた。11月の「犬の日」に合わせて、渋谷駅前に出した広告が印象的だった。ドッグフードの広告は、かわいらしい犬の写真がメインになることが多いと思うが、この広告では、「食べたくて待ちきれない」を表現するために、あえて犬の写真がぶれぶれになっていた。一目みて印象的で、商品の良さも伝わる面白い広告だと感じた。Xでもかなりバズったようで、同社の社員の方のポストには、6万以上の「いいね」が集まったようだ。
手塚:さっきの話にもあったが、ネット広告のCPAが上がっているというのがある。そのため、広告戦略とか、利益の確保がどんどん難しくなっていると感じる。大手だと、投資を行って効率化を図っていくことができると思うが、中小企業では難しい。自分たちがインフルエンサーになったり、パブリシティーとして露出したりすることで、ネット広告の高騰を回避できたりすると思う。SNSやメディアをうまく使えるショップが注目を集めやすいのかなと、今回の話を聞いて感じた。
【記者が考える2024年のキーワード】
▲佐藤歩未記者
「文化に合わせた商品の選び」 日本と文化が異なる海外では、販売する国などに合わせた商材を知る必要があると感じる。