賃上げの原資をつくるのは価格の適正化
岐阜県にある業務用パンの製造・卸売業「小麦家」。長く売り上げ減少、事業承継などの問題を抱えていた。
同社が頼ったのが地元の各務原商工会議所。経営者と商工会議所の経営指導員が対話を重ね、生産能力の向上と品質の安定化という2つの課題を設定。会議所と共に課題解決にあたった結果、2021年度の売上は過去最高を記録(支援前の16年度に比べて53%増)。毎年採用を続け、支援前に18人だった従業員は現在60人に拡大、賃上げも実施できる企業に生まれ変わった。
「日本の産業を支えているのは中小企業。中小企業の方々と一緒に悩み、中小企業の変革や生産性向上に貢献していく」
日本商工会議所会頭の小林健氏はこう語る。
2022年11月に初の総合商社出身の会頭となった小林氏。会頭就任から1年余、原材料・エネルギー価格の高騰や円安、人手不足など、足元の日本経済、とりわけ中小企業を取り巻く環境は極めて厳しい。氏の舵取りが注目される所以だ。
今はコロナ禍を経て、社会経済活動の正常化が加速し、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格化。原材料・エネルギー価格高騰が中小企業の収益を圧迫する中で、とりわけ重要なのは、取引価格の適正化、価格転嫁の推進によって、どう経済の好循環を実現していくかということである。
商工会議所は、取引価格の適正化に向けて、大企業と中小企業の共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」を政府と共に推進している。小林氏の会頭就任当時、約1万5千社だった賛同企業は今では約3万8千社に増加。経営者の意識も変わりつつあるという。
「賃上げの原資をつくるのは価格の適正化。材料費高騰の価格転嫁はかなり地合いができてきた。この賃上げを持続的なものとし、経済の好循環につなげるには、労務費の増加分についても転嫁できる商習慣づくりが大事だと考えている」(小林氏)
現在は輸出関連の大手企業を中心に、円安を背景にした好業績が相次いでいる。一方、内需依存型の中小企業は業績回復が遅れる企業も多い。連合(日本労働組合総連合会)は今年の春闘で5%以上の賃上げ要求を決定したが、中小企業にとっては厳しいのが現状だ。
日本企業の99%を占める中小企業。この中小企業が活性化しないと日本経済の活性化につながらず、その意味で、商工会議所の果たす役割も大きい。
中小企業の活性化に向けて、どう商工会議所は動いていくか。