CMS(コンテンツ管理システム)は、2000年頃に登場してから20年以上の長い時間を経て、企業のWebサイト管理のニーズに合わせてさまざまな機能が拡張されてきました。

原点であるコンテンツ制作、ワークフローに合わせた投稿管理機能の他、近年ではユーザーエクスペリエンスやブランド体験が重視されるようになったことでマーケティングオートメーション機能を一体化したCMSも登場するなど、多種多様なプロダクトがリリースされCMSの選択肢は広がっています。

しかしその一方で、改めて原点回帰してコンテンツ制作に特化したCMSを選択する企業が増えています。なぜ今、原点回帰の傾向が強まっているのでしょうか。

CMSの歴史をひもときつつ、CMSの最新動向について見ていきましょう。

CMS誕生:Webコンテンツ管理の歴史

「VIGNETTE」、「TeamSite」をはじめとするさまざまなCMSは2000年頃に登場しました。当時のCMSは、HTMLやCSSなどのWebデザインに関する知識がなくてもWebページの制作から公開までが行えるコンテンツ制作機能に特化したツールでした。

日本ではコーポレートサイトをはじめとするWebサイトの制作や運用を、外部の制作会社に外注している企業が多く、Webサイトにページを追加するには、見積り・発注・制作・納品といったプロセスを経るため、ページの公開までに時間を要していました。

しかしCMSを活用すれば、プレスリリースやIR情報などのページをスピーディに公開することができるため、多数のブランドや膨大な数の製品を保有するメーカー企業を筆頭に、日本企業でも徐々にCMSの導入が進んでいきました。

2003~2004年頃にはブログブームが到来し、さまざまなブログ型CMSが登場しました。さらに2008年頃からはSNSと連動したコンテンツを展開できるようになったり、2010年ごろにはモバイルファーストなWebサイトが見られるようになったりと、CMSは時代のニーズに合わせて進化してきました。

コロナ禍で高まったデジマ型CMSへの注目度

2015年頃からは、“モノからコトの時代”として、ユーザーエクスペリエンス、サービスやプロダクトにまつわるストーリー性が重視されるようになりました。それに伴って企業は、サイトへアクセスするユーザーごとにコンテンツをパーソナライズし、顧客体験の価値を高めるためのアプローチを始めました。

パーソナライズのニーズは2020年頃からさらに加速しました。その背景にあるのは、コロナ禍におけるいわゆる “おうち時間”の増加です。緊急事態宣言の発出を受け、多くの企業がそれまで対面で行っていたサービスをオンラインサービスへ変更、あるいは新たにWebサービスへ参入しました。

これにより、企業がWebやSNSを通じて配信するコンテンツの量は増え、趣味や志向性に合わせてユーザーごとにパーソナライズされたコンテンツが提供されるようになり、マーケティングオートメーション(MA)の活用が一気に進みました。CMSにもMA機能が付随しているデジタルマーケティング型CMS(以下、デジマ型CMS)が登場し、注目されました。

デジマ型CMSを導入した多くの企業は「コンテンツの更新をしながら、マーケティングが一緒にできたら効率的だ」と考えていました。しかし、実際に運用を始めてみると「想像した以上に使いこなせない」「機能面に物足りなさを感じる」というギャップに苦しんでいるケースが多く見られました。

CMSだけで顧客体験が最適化できるという幻想

Webページを作成・更新・運用できるCMSとMAが一緒になると、利便性が高く、運用工数が大幅に削減できるようなイメージを持ちがちです。しかし、一体型になっても、これまでCMSの操作にかかっていた工数だけでMAが使えるようになるわけではありません。

MA機能を使うためには、さまざまなケースを想定したシナリオを考え、シナリオマップの構築やトリガーとなるイベントの設定、顧客ごとに表示させるコンテンツを作らなければなりません。また、運用後もPDCAを回しながら改善していかなければ、MAとして適切に機能しないため、マーケティング担当者の負担は少なくありません。さらには、一体型になっているため、専用のMAと比較すると機能面で制約もあります。

CMS機能についても、コンテンツ管理に特化したCMSと比較すると、柔軟性に欠ける一体型CMSもあります。例えば、 キャンペーンページなど定型テンプレートで作成できないリッチコンテンツは、外注している制作会社から納品されたファイルをCMSに登録することになります。

その際、コンテンツ特化型CMSであれば、大抵はHTML関連ファイル一式を簡単に登録できる機能が備わっています。しかし、一体型CMSでは、テンプレートページの編集画面で、制作会社から納品されたHTMLを開いてわざわざコピー&ペーストして登録する必要があります。中には、HTMLの登録ができず、CMSごとに独自開発されたスクリプトやコードを使ってページ制作をしなければならないこともあります。

後者の場合、制作会社は顧客が使用するCMSごとのコーディングルールを習得してページを作らなければならず、非常に負担が大きいため制作費の見積りが高額になることもあるでしょう。一体型CMSは決して魔法ではないのです。

増え続けるコンテンツ発信に伴うリスク管理

顧客とのタッチポイントを増やすために、企業が発信するコンテンツ量も年々増え続けています。以前は、週に数回程度だったWebサイトやSNSを通じた発信が、最近はブランドごとに1日に何回も発信し、企業全体では一日の発信件数が数十回に及ぶケースも少なくありません。

また、多くの企業がコーポレートサイトのみならず、ブランドサイトやキャンペーンサイトなど複数のWebサイトを運営しています。それらのサイトは事業部によって異なるCMSで作成されているかもしれません。

そして、それらすべての発信内容において、企業として責任が発生します。万が一の備えができている企業はどれだけあるでしょうか。企業は更新頻度とボリュームが増え続けるコンテンツを適切にリスク管理するために、次の3点を踏まえる必要があります。

(1)万が一に備えたコンテンツの履歴管理

多様な問い合わせやクレームに対処するために、いつ、どの媒体に、どのような内容で、どの素材が掲載されていたのか、すべての発信において履歴を管理します。発信した内容に生じる責任を果たすために、すぐに過去の情報を遡れるように管理しておきましょう。個々のHTMLや画像のバージョン管理だけでなく、サイトのページ間のリンクまで整合性を担保したサイト全体のバージョン管理を行うことが望ましいでしょう。

(2)配信までのスピード感と柔軟性

スピード感を持って配信したいニュースリリースや、公開まで機密性の高い内容を含むIR情報などは、テンプレートを使って内製で柔軟に対応できるようにしておきます。

ランディングページなどダイナミック性が必要なページは外部ベンダーに依頼したり、サードベンダーのツールを活用したりして、自分たちで作れるようにし、納品されたコンテンツも一元管理しておきましょう。

(3)リスク低減のために全サイトのガバナンスを担保

コンテンツ制作に関わるユーザーに対するアクセス権限や利用機能制限などのセキュリティ管理を含めた、公開までのワークフローは徹底できているでしょうか。

CMSを導入していないサイトでは、適切なガバナンスが確立されず、間違った内容のコンテンツ掲載や情報漏洩などのリスクを抱えてしまう可能性があります。ガバナンス面、セキュリティ面の懸念を解消して、公開までのワークフロー管理、アクセス管理、バージョン管理などを徹底しましょう。また、複数ページの整合性を担保した形でスケジュール通りに公開することも重要なポイントとなります。

Back to Basicの確かな潮流

こうした課題をクリアするには、制作の柔軟性のみならず、セキュリティ、ガバナンス、バージョン管理や公開管理などのリスク低減といった点でもWebサイトを管理するための必要な機能を保有しているCMSの導入が非常に効果的です。

しかし、管理・維持コストが高いデジマ型CMSをすべてのサイトに導入することは難しく、またコスト面からオープンソースのCMSを利用する場合はセキュリティ面の懸念もあります。

そこで冒頭にも述べたように、現在、コンテンツ制作に特化したCMSに原点回帰する傾向が強まっています。MA機能と一体型になっているデジマ型CMSを使用することでかかる工数や制約などを踏まえると、それぞれに機能性の高いMAとCMSを併用し、適材適所で使い分けるほうが得策だと考える企業が増えているためです。

あらゆるタッチポイントにおいて、パーソナライズされたダイナミックなコンテンツを提供するには、コンテンツ管理機能が制限されたMA一体型の多機能なデジマ型CMSよりも、コンテンツ管理に特化したCMSのほうが適しているのは言うまでもありません。

しっかりとした保守サポートのあるCMSの中から、さまざまなリスク管理と必要なユーザーエクスペリエンスを提供することができるプロダクトを選定しましょう。

著者プロフィール


小口 貴史

オープンテキスト株式会社 ソリューションコンサルティング本部/プリンシパル ソリューションコンサルタント

SI企業でシステム開発を経験した後、インターネット黎明期の代表企業であるNetscape社に入社。その後、Webコンテンツ管理の先駆けであるInterwoven社を皮切りに、Autonomy社やHP社でのコンサルティング業務などを経て現職。OpenText TeamSiteを活用したデジタルマーケティングの促進支援など、日本におけるカスタマーエクスペリエンス(CX)の改善支援に20年近く従事し、様々な情報発信を行う。