シリウスは1月17日、介護の現場でも重労働とされる入浴介助における介護者の負担を軽減する、誰でも、いつでも、手軽に簡単に操作ができる介護用洗身用具「switle BODY(スイトルボディ、型番:SWB-1000JP)」を発表した。
シリウスは2008年に創業された電機メーカー。2011年より三洋電機に務めていた亀井隆平氏が代表取締役社長に就任。これまでに空気清浄機や加湿器、クリーナー、調理家電などを販売してきており、2017年より販売を開始した掃除機につなげて使用する水洗いクリーナーヘッド「switle」は累計7万台強を売り上げるヒット商品となっている。
ヒット商品の技術をベースに介護の負担を軽減
今回開発されたswitle BODYは、シリウスの有する技術で超高齢化社会における社会課題の解決を目指した商品。入浴が困難な高齢者や身体が不自由な人が、普段使っているベッドに横たわったまま、布団やシーツを濡らさず、かつ汚さずにシャワーを浴びたときのように洗うことを可能としたもので、switleの水を吹き付けながら同時に吸い取る機構、気体と液体を完全に分離して汚水が洗浄水に混ざらない機構が活用されているという。
本体サイズは23cm×45cm×25cm、重量は5.5kg、身体を洗うための水を入れる清水タンクが1800ml、身体を洗った後の水を入れる汚水タンクが2000ml、国際科学工業と共同開発した泡立ちしすぎず、かつ固まったりしない専用洗剤を入れる洗剤タンクが300mlとなっている。デザインはexiii designの代表取締役を務め、シリウスの取締役も務める小西哲哉氏が担当。そのコンセプトは、「介護福祉の現場によりそうカタチ」で、「介護者にやさしい」、「介護施設で効率的な収納」、「多様な介護状況に対応」の3つの視点を重視して、介護を受ける人がいつも快適に介護を受けられることを目指したとする。
例えば介護者にやさしいという観点としては、各タンクは上に引き出すだけで取り出せるように、水を入れた後も差し込むだけにしたほか、ボタンやノズルも直感的に対応できたり、握りやすい太さを意識したとする。また、筐体についても、メンテナンス性を考慮したシンプルなものを採用して、重ね置きを可能としつつ、上部を皿状にすることで、タンクから水がこぼれても筐体の外にこぼれないように工夫を施したとするほか、身体を洗うためのホースや電源ケーブルは本体に巻き付けるだけで片付けられるようにしたという(ホース取り付け位置にはマグネットが仕込まれており、自然と収まる形となっている)。
介護者の負担をいかに減らすか
介護保険の利用者数は2000年には184万人であったものが、2025年には606万人になり、2040年には746万人まで増加する見通しで、要介護者の数が増加する中、介護職員の数は必要とされる数も増加していくことになるが、実態は不足が常に続いている状況かつ、介護職に就く人の中には60歳以上の人も多く、全国労働組合総連動の調査では2019年5月時点で訪問介護職員の平均年齢は55.5歳と、介護職員そのものの高齢化も問題となりつつある。
そうした幅広い年齢層で構成される介護者がswitle BODYを使うため、使い方も非常にシンプルなものとしている。主電源を入れて、加熱スイッチを押して、温度調整スイッチで38~42℃のどれかの温度を選択、その後、ホースの先のシャワーヘッドのお湯噴射ボタンか専用ソープ噴射ボタンを押すだけで良い。お湯はグラフェンヒーターを活用して指定温度まで1分もかからずに昇温。お湯は身体を洗った瞬間にホースに回収され、汚水タンクへと配送。汚水タンクで気体と液体に完全分離され、タンクの下側に汚水が溜まっていき、タンク上部から空気(気体)が逃げていく仕様となっている。
また、シャワーヘッドには身体を洗うための交換可能なスポンジヘッドを搭載しているほか、専用アタッチメントに交換すれば、洗髪も可能としており、手軽に介護が必要な人の入浴を介助できるようになっているとする。 同社では、2025年4月からの介護保険の適用を目指しているとのことで適用されれば月1000円(税別)程度でレンタルすることも可能になるという。
海外展開も計画
同社では、同製品のターゲットユーザー層を身体が不自由な高齢者や障がい者、術後や療養でベッドから動けない人などと想定。販売先としては特別養護老人ホームや医療機関を中心に、居宅療養者や在宅介護者などを想定しているとする。
また、switle BODYの商品化に当たっては、台湾のサイバーグループと協業関係を構築。同社の力を借りて、中国で半完成品を作り、台湾から精密部品を輸入、シリウスの八潮事業所で最終組み立てや検品、梱包を行って、国内向けに販売を行うとしているが、こうした協力を機に海外展開も視野に入れているという。
すでに高齢者介護は日本だけの問題ではなく、世界的な問題となりつつあり、同社はJETRO(日本貿易振興機構)とも協力し、海外展開を推進。ベトナムでの試験運用を1月末より開始するほか、ホーチミン市では技能実習生向けトレーニングに向けた紹介を行うとしている。また、すでに中国では実証実験を開始済みとするほか、台湾でも2月より試験運用を開始する計画としている。さらに、3月14-17日にかけて韓国ソウルで開催される国際医療機器展に出展して紹介を行うほか、米国ではKickstarterを活用する形で市場開拓に挑戦するとしている。また、商談ベースとしては台湾、中国、韓国、ベトナムで具体的な話が進んでおり、米国でのクラウドファンディングを機に、アジア以外への販売網拡大を図りたいとしている。
日本でも、これまでは家電量販店の販売網がメインであり、介護用品はなかなか売りづらいということもあり、同社では1月の東京を皮切りに47都道府県すべてで代理店説明会を開催し、商品の魅力を伝えていくことを予定しているとする。
令和6年能登半島地震の被災者支援にも活用
switle BODYの発売に併せてシリウスはイメージキャラクターとして清水国明氏を起用する方向で調整を進めていた2024年1月1日、石川県能登地方で最大震度7を記録する令和6年能登半島地震が発生した。
清水氏も珠洲市の要請を受け災害支援物資の輸送などに参加。3回目の支援に赴く際、組み立ったばかりのswitle BODYの2台の試作機を被災地に持ち込むことを亀井氏に提案。実際に複数の避難所を訪問し、1人あたりに使用する水の量も全身を洗う場合でも1L~1.7L程度と普通の入浴に比べて圧倒的に少なくて済むため、入浴できていなかった多くの避難者に活用してもらい(清水氏はトレーラー型のトイレも支援として持ち込んだという)、その使い勝手を体感してもらったという。清水氏はまた能登に支援に行く予定であり、その際もswitle BODYを持ち込んで避難が続く多くの人に活用してもらいたいと語っていた。
亀井氏は、ヘッド部分を変えることで、クリーニング、医療、清掃、ペット、船舶などの分野で活用できるとの期待も示しており、今回の被災地での活用も含め、将来的には介護以外の分野での活用も期待したいとしている。
なお、switle BODYの販売予定価格は18万4800円で、国内発売は2024年春を予定(目標は3月21日としている)。初年度販売計画としては、国内2万台、海外1万台としており、オプションや消耗品含めて合計で30億円の売り上げを目指すという。
今も生き続けるサンヨーマンの誇り
ちなみに亀井氏は元三洋電機社員であるが、三洋電機は1970年に開催された大阪万博で「人間洗濯機」を公開した企業でもある。そうした意味も含め、同氏はswitle BODYを現代の人間洗濯機とも表現するなど、三洋電機への思いの強さを語っている。今回もswitle BODYの販売を前に、創業家で元三洋電機の社長や会長を歴任した井植敏氏へと取り組みを報告。その際、「世界へ羽ばたけ」と激励を受けたという。
三洋電機の三洋は元々、太平洋、大西洋、インド洋の3つの海を意味し、世界で活躍できる企業になるという意志が込められたもの。亀井氏は「switle BODYは社会性の高い商品であり、こうした商品を世に問うて、世界中の介護や入浴、水といった問題に対して少しでも役に立ちたいと思っている。三洋の思いで世界中の介護の問題を解決していきたい」とその決意を表明。今後も自社の保有する技術を活用する形でさまざまな社会課題の解決を目指していきたいとしていた。