産業用機械部品などの製造を手がける石川鋳造は、BtoC事業として鋳物の家庭用フライパンを販売している。ECサイト開設から約5年で、販売枚数は累計7万枚を超えた。広告を打たずに、SNS活用やサブスクの立ち上げ、体験型施設の開設などの取り組みで、売り上げを伸ばしている。
事業の開始について、「リーマンショックで、主要取引先である自動車産業のニーズが変わったことがきっかけだった。OEMだけでなく、toCの自社商品の必要性を感じた」(石川鋼逸社長)と説明した。
鋳物の特性である熱伝導性や保温機能を生かせる、自社技術を使ったフライパンを販売することにした。
▲「おもいのフライパン」
「商品の構想に10年、開発に3年をかけた。商品の良さを直接伝えるためにも、自社ECサイトを販路とし、知り合いに相談して構築した」(同)と言う。
認知を広げるために、SNSを活用した。「試作品の段階で、実際に肉を焼く様子などをインスタグラムで投稿した。じわじわと動画が拡散され、『いつ発売するのか』『本当に肉がおいしくなるのか』などのコメントが増え、話題になった」(同)と話す。
▲おいしく肉が焼けるという
ECサイトの開設当日には200枚の注文が入ったという。「当時の町工場で作れるのは1日10枚だったので、いきなり1カ月待ちとなってしまった。話題が話題を呼び、地元や全国のテレビ番組で紹介してもらった」(同)と振り返った。
オファーのあったメディアの全てに対応したことで、広告を打たずに認知を高めることができたという。
フライパンは長く使えるため、リピート購入はされにくい。別の商材として、2020年6月に肉のサブスクを開始した。
「試作段階からつながりのある、地域密着型の精肉店と協業した。おいしい肉をさらにおいしく焼く、という体験価値を提供することで、ファンを獲得している。お互いの売り上げを伸ばしている」(同)と話した。
2023年11月には、フライパンの工場見学や試食を通して、鋳物の魅力を伝える体験型施設をオープンした。オープンから3週間で約500人が参加し、施設で販売するフライパンの売り上げは100万円を超えたという。
▲施設の様子
今後は、フライパンのtoB販売を強化する方針だ。「すでに愛知の老舗『みそかつの矢場とん』の一部で導入している。これからも飲食店で起用してもらい、販売数を大きく伸ばしたい」(同)と意気込んだ。