【〈記者座談会〉2024年のEC市場予測】《② 物流》コスト増がサプライチェーンに波及

後藤:2024年において、物流関連のトピックスの注目度はとても高い。多くのトピックスの中から、物流費の高騰という観点から4つに分類する。

1つは、物流費の値上げに伴う影響、2つ目以降から倉庫側の現状、荷主側の対応、物流のロボティクスやソリューションの観点で進める。星野記者はどうか?

星野:配送会社の値上げは今後も続くと思う。ヤマト運輸や佐川急便が昨年4月ごろ、日本郵便は秋ごろに値上げを発表した。佐川急便に関しては、昨年の秋ごろに、今年4月の値上げも発表している。

こうした状況から、大口顧客の通販会社や3PLに対して、個別に値上げを打診していく流れも十分あり得る。

一方、物流費の高騰をどこで吸収していくのかにも注目する。通販・ECでは、商品価格の値上げが進んでいる。化粧品や健康食品、家電、家具など、さまざまな商品が今後値上げされると思う。物価の上昇にもつながるため、購買行動の冷え込みにもつながりそうだ。

後藤:酒井記者はどうか?

酒井:私は倉庫のロボティクスやWMSなどを取材している。私が担当するロボティクスのExotec Nihon(エグゾテック)はフランスの会社だ。日本や韓国のECが進んでいることも踏まえて、アジア市場での導入に注力している。あと、東大発のロボティクスベンチャーのレナトスロボティクスは、個人的に注目している。

後藤:ロボット(ロボ)導入で作業の効率化が進んだという声はあるか?

酒井:物流の2024年問題はトラックドライバーの負担を減らす対策となる。現状は、待機時間が長過ぎており、荷物を積み込むまでやることがない。この観点から、ロボが倉庫内の作業の効率化を進めてドライバーの負担を減らそうとアプローチし、2024年問題の解決につなげようとしている。

<「2024年問題」の影響が表面化>

後藤:分かりました。次は私から。星野記者や酒井記者が話したように、物流の2024年問題は時間の経過とともに、さまざまな分野への影響が表面化している。

2024年問題はBtoB輸送などへの影響が中心とされていたが、そんなことは全くないと、当初から思っていた。

本質は、トラックドライバーの労働環境の改善が根底にあるためだ。さらに、通販EC業界は、物流自体が競争領域であるため、配送会社だけの問題ではなく、必ず倉庫や荷主にも影響が出ることは必然だ。

私は3PLを担当している立場から、前述したことをまとめると、2024年問題の鍵を握るのは、倉庫側にあると思う。

まず、今、倉庫で何が起きているのか。集荷時間が従来よりも早まっている。ただ、取材していくと、従来と変わらない、さらには融通を利かせてもらっている倉庫もあることが分かった。状況的には、早まったという声と変わらないという声で二分化している。

集荷時間の件は、倉庫内の生産性向上も含めて意識しないといけない。大手の3PLを中心に、先ほど酒井記者が話したようにロボの導入が進んでいる。

星野記者が話していた商品価格の値上げの部分も同様に、商品値上げの前に、物流費の見直しとして、荷主から3PLへ倉庫管理費の交渉も進んでいる。なかには、倉庫管理費が高いから、荷主が他の3PLへ切り替える動きもある。

こうした中、3PLの動きも活発だ。カート側の企業との直接提携が目立ってきた。さらに、3PLが持つ運賃表(タリフ)の調整も進む。タリフは3PLと配送会社による契約のため、3PLごとで違う。もちろん、物量が多いほどタリフは異なる。大半は現状維持だが、なかには、タリフがさらに安くなっている3PLもある。

安いタリフを持つ3PLは、荷主集めもできている。今だからこそ、あえてタリフを公開する3PLも増えている印象で、配送単価が安いことは1つの大きなポイントだ。

【記者が考える2024年のキーワード】

▲星野耕介記者

「EMV3―DS」 ECサイトでカード決済を行う際の本人認証「EMV3―DS」を、2025年3月までに導入することが義務化された。

<アマゾンの物流会社化にも注目>

星野:アマゾンの物流会社化という点にも注目だ。アマゾンは、自転車と軽自動車の配送を可能にしている。これは配送会社や個人事業主の配送員でなく、主婦や学生でも、自転車や軽自動車を持っていれば、アマゾンの商品を配送できるということ。

ウーバーイーツのような配送が定着すれば、アマゾンの物流を大きく支えることになる。楽天市場で注文した商品をアマゾンの倉庫から発送して、アマゾンの配送員が消費者宅に運ぶことはすでに行われているが、それが拡大すると思う。

後藤:アマゾンは群を抜いて完全独自路線というか、巨大なインフラを作ろうとしている。アマゾンも物流の2024年問題を問題化させたままではいけないとする印象を受ける。労働環境を改善しようという取り組みを進める会社でもあるため、見習う部分は多くある。

酒井:少し話はずれるが、先日、ZOZOの倉庫に行った。休憩室が非常におしゃれで驚いた。こういうソフトのアプローチも大切だと感じた。

後藤:労働環境を良くする意味では、カフェテリアや共有スペースをおしゃれにするのはもっと当たり前になると思う。ここ数年に建設された新しい物流倉庫はおしゃれできれい、居心地が良いことが必要条件になっている。

酒井:そもそも、そうではないと個人的には働きたくない。

後藤:女性は特にそうかもしれない。手塚記者は、これまでの話を聞いてどうか。

手塚:ヤマト運輸は、外部の配送員を使うのを廃止して、日本郵便への委託に切り替えた。もしかしたら配送品質を気にしていたのかもしれない。もしくは、意外とヤマト運輸の荷物量がそんなに増えていないからか。

配送領域は、自社で仕組みを作ろうとするとコストが高いから、それぞれの強みをそれぞれでカバーする形に進んでいる気がする。

アマゾンは、星野記者が言うようにウーバーイーツ化しているというか、もっといろいろな人が配送に参加できるような方向に舵を切っている感じがする。ヤマト運輸はこれをやろうとしたが、断念したのか、見直したのかという感じだ。

星野:米国のアマゾンでは、一般消費者によるウーバーイーツ化した配送が定着している。例えば、配送に参加する人は、都心で仕事をしていて、郊外の家に帰るような人の場合、帰り際に、自分の車で都心のアマゾンの集荷センターで荷物をピックアップする。自分の住んでいる家の近くの人に配送する形だ。日本にはこうした動きはまだない。実際にどこまでできるか分からないが。

<ロボ導入への期待感>

手塚:政府の物流緊急パッケージがある。あれで予算がついて、具体的にどのぐらい倉庫のロボ導入が進むのか、期待感はある。ただ、ロボ導入は採算が合わないという中小の3PLの見解を聞いたことがある。

酒井:導入するロボの種類にもよるのではないか。

後藤:既設倉庫の場合、ロボを導入後、すぐに生産性が上がるわけではなく、ある程度の期間を見つつ、庫内作業の調整が必要だ。先行する投資コストを踏まえて準備が求められる。

予算の部分とは脱線するが、結局、ロボ導入費用をどっちが負担していくのか、という問題もある。荷主負担か倉庫負担なのか、これが結構、大きな問題。

倉庫契約は数年単位での契約となる。仮にロボを導入しても、荷主が抜けてしまうと機器の減価償却が変わる。また、倉庫内全体の生産性向上のために導入したとしても、設備投資分を倉庫管理費で補おうとすると、荷主からはなぜ値上げするのか、倉庫側で負担してくださいという具合になる。これはなかなか難しい問題だ。

今は、Gaussy(ガウシー)やプラスオートメーションが提供する月額制でロボが使えるサービスが台頭しているのは、そういう費用の問題もあると思う。

ロボから話がずれるが、配送会社を選ぶ時代にもなっている。先日、ある3PLの会社が、配送会社を一本化した。背景には、タリフが絡む部分が大きいようだ。今後はこうした動きが表面化していくと思う。

もちろん、ヤマト運輸や佐川急便、日本郵便など、それぞれにあったメリットに差がなくなってきている。依頼先も配送方法も多様化している。配送する側は自社の強さを出していかないと他に取られてしまう時代に突入した印象を受ける。

星野:ロボの導入は災害時のBCP対策にも対応しそうだ。2017年2月に埼玉・三好のアスクルの倉庫で火災が発生した。ロボット化しておくことで、災害時の人的被害が抑えられるといったこともありそうだ。

後藤:確かに。今、導入が進んでいるロボは海外製が多い。ロボの情報自体も少なく、すぐに海外に真似されてしまうリスクがあるようだ。しかしながら、もう少し日本製品の奮闘もみたい。

酒井:あと、ロボットは冷凍などの温度帯とかに対応できていない。

後藤:そういう部分で勝負はできそうだが、なかなか難易度が高いような気もする。

<宅配会社との関係性が3PLの差別化に>

手塚:先ほど、後藤記者が言った宅配会社を絞る動きは、これからも結構増えそうで、そういう物流戦略を描く企業も増えるだろう。3PLから、うちは佐川急便と併設する物流施設を作っているから、好条件で配送してもらえるとか、ヤマト運輸とこういう取り組みしているから、長めにヤマトのメール便を使えるといった話を聞く。

宅配会社が厳しくなっている分、条件交渉も厳しい。ただ、宅配会社としては、効率的な配送ができる通販会社とか3PLなどに対しては、多少優遇するということはある。物流コストを抑える1つの戦略に、通販会社だけで取り組むのはなかなかできないかもしれない。その辺りを上手にやっている3PLと組んだりする動きはあり得る。

後藤:3PLからも、配送会社の配送センターの近くに倉庫があると、条件が優遇されるという話を聞く。近いから短時間で配送や集荷ができるメリットがあるとのこと。もちろん、それなりの物量は必要だと思う。

【記者が考える2024年のキーワード】

▲後藤工記者

「新技術と戦略的連携」 水面下で進む新しい技術やサービスの台頭に注目している。2023年に続き、各社の戦略的な連携も増えると予想。