京都フュージョンエンジニアリング(KF)、核融合研究所(核融合研)、筑波大学の3者は1月12日、35GHz低周波数の核融合炉用の炉心プラズマ加熱装置「ジャイロトロンシステム」(以下、GS)の性能試験において、60GHz以下の同装置での最長級かつ最大級となる3秒間の1MW級での出力を実現したことを共同で発表した。

同成果は、KF、核融合研の西浦正樹准教授、筑波大の数理物質系の假家強准教授、英国原子力公社(UKAEA)、キヤノン電子管デバイスの国際共同研究チームによるもの。今回の結果は、2023年11月27~30日に岩手県で開催された「第40回プラズマ・核融合学会 年会」において発表された。

GSは、装置内部に発生させた強磁場中で回転する電子の運動エネルギーからマイクロ波を発生させ、導波管を通じて炉心プラズマを加熱する装置だ。磁場閉じ込め方式の核融合炉において、プラズマ状態を作り出すために必要な加熱システムとして研究開発が進められている。

日本を含む国際協力で進められている核融合実験炉「ITER」や、日本・欧州で共同で研究開発が進められているトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」向けに開発されているGSは、電子の回転周波数に合わせて共鳴させる100GHz以上の高周波数のものが主流で、電子サイクロトロン加熱により炉心を加熱する。

しかし、英国の国立核融合実験「MAST Upgrade」をはじめとする球状トカマク装置においては、その特徴から電子サイクロトロン加熱が難しいため、「電子バーンスタイン波」という比較的低周波数で高密度プラズマの電子を加速・加熱できる別の方式を取り入れる必要があるという。そこで、プラズマ加熱実験のため、1台のGSで28GHzと35GHzが発振できる1MW級低周波数GSを新たに開発することを目指したとする。

GSを用いて核融合反応を起こすためには、炉心プラズマを加熱するためのビームを、高い出力のままGSから炉心プラズマに誘導することが重要だ。しかしGSは、周波数が低くなるほど装置本体から出力するビームが発散しやすくなり、炉心プラズマまでの伝送が難しい上に放電しやすく、その結果として機器の破損の可能性が高くなるといった問題があった。そのため、秒レベルでMW級のビーム出力が可能なGSの開発が困難な状況だったという。そこで研究チームは今回、低周波数GSの研究開発に取り組んだとする。

今回の実験では、筑波大の假家准教授の研究チームが有する低周波数GSのノウハウをもとに、装置本体からビームを出力するためのGS内部に設置しているミラーと、装置本体から発生したビームを炉心プラズマに伝送するための導波管へ誘導する準光学的結合器内のミラーをそれぞれ大きくすると同時に、2つのミラー間の距離を可能な限り近づけるように、システムが設計された。このミラーの拡大により、発散しやすいビームの伝送損失を最小限に抑え、またミラー間の距離を縮めることで伝送損失や放電を軽減させることが期待できるという。

その後これらの設計の微調整が重ねられ、そして装置本体を稼働させるため、高電圧電源や、ビームを発生させるために必要な磁場を形成する超電導マグネットのパラメータの調整も行いつつ、性能試験が重ねられた。

  • (左)核融合研での性能試験時のGS。(右)GSの内部構造のイメージ

    (左)核融合研での性能試験時のGS。(右)GSの内部構造のイメージ(出所:核融合研Webサイト)

そしてGSの性能試験において、35GHzの低周波数で3秒間の1MW級(ダミーロードでの計測で930kW)の出力が実現された。従来は筑波大の2周波数ジャイロトロンにおいて、1ミリ秒クラスの短パルス動作で28GHz・1.65MW、35GHz・1.21MWが達成されていた。一方で秒レベルの発振としては、電源システムの制約により、0.4MW‐2.8秒、0.13MW‐30秒などの出力までが達成されていた。しかしパルス幅が制限されていたことから、これまで1MW級、秒レベルの動作検証が行われていなかったとする。

大電力電磁波ビームの発散が大きな課題である35GHzの比較的低周波の領域で、秒レベルのMW級での出力が達成されたことは、小型核融合炉開発における大きな貢献となる可能性があるという。

また再現性と安定性の観点でも高い性能が確認され、合計20回の出力のうち19回は同等の数値での出力に成功したとする。加えて10回連続の出力でも同等の数値が確認され、信頼性の高い結果を得ることができたとした。

今後このGSはUKAEAへと渡り、オックスフォード近郊のカルハムに装置が設置されているMAST Upgradeにて使用される予定。ここではUKAEAが主導する核融合プラント開発プログラム「STEP」に貢献する実験が行われる計画となっている。

  • GS装置本体

    GS装置本体(出所:核融合研Webサイト)