2024年は選挙イヤーと言われるなか、早速台湾で次の指導者を選ぶ選挙が実施された。総統選挙の結果、蔡英文政権で副総統を務める民進党の頼清徳氏が勝利したが、これによって台湾を巡る状況はどう変化するのだろうか。
この結果は中国にとっては避けたいシナリオだった。これまで8年間の蔡英文政権は中国による台湾統一に強く反発し、自由と民主主義を掲げ、欧米諸国との連携を強化することで中国に向き合ってきた。中国からすると自らの意思に背く敵対勢力であり、中国は蔡英文政権の台湾に対して軍事的、経済的に圧力を加えてきた。
近年では一昨年8月、当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問したことに中国は強く反発し、中国軍は台湾本島を包囲するように大規模な軍事演習を行い、大陸側からは複数の弾道ミサイルを発射され、これまでなく台湾を取り巻く軍事的緊張が高まった。今日でも中国軍機による中台中間線超えや台湾の防空識別圏への侵入が続いている。また、中国当局は経済的威圧を断続的に仕掛け、台湾産のパイナップルや柑橘類、高級魚ハタなどを突如一方的に輸入停止にするなど台湾へプレッシャーを加えた。こういった蔡英文政権下での威嚇や挑発が、今後4年間継続されることになろう。
しかし、偶発的な軍事衝突などのシナリオを除き、今回の選挙戦が転機となって台湾有事を巡るリスクが急激に高まるとは考えにくい。今日、人民解放軍に台湾本土をスムーズに支配下に置ける能力や規模は備わっていないとの見方が大筋で、軍事作戦の失敗は習共産党政権の権威を大いに失墜させるリスクがあることから、米軍の対応を含め中国は慎重に決断を下さざるを得ない。具体的な軍事作戦で失敗は許されない。
また、不動産バルブの崩壊や経済格差、若年層の高い失業率や外資離れなど、習政権は今日多くの経済的難題に直面しており、米国など諸外国との経済関係を不安定にしたくない。台湾への軍事作戦を実行に移せば、欧米諸国から経済制裁が発動される可能性が十分にあり、そのリスクを冒してまで軍事作戦を決断するとは考えにくい。
無論、習政権は武力行使を排除しない姿勢を堅持しているので、台湾有事は潜在的脅威として引き続き残る。現時点ではその可能性は低いものの、今後の頼清徳政権と中国との関係がどこまで冷え込んで行くかどうか、習政権がどの段階で平和的統一は難しいと判断するかが重要なポイントとなろう。
現時点で台湾に進出する日本企業が退避などを進める段階では全くないが、少なくとも今後4年間で台中関係が改善の方向に向かう可能性は極めて低いことから、今後の頼清徳政権の対中政策、中国の反応を日々注視していく必要があろう。