2023年は、アフターコロナでリアル消費に回帰する機運が高まった。EC専業の企業にとっては向かい風となる中、実店舗を持つ企業は、ECと実店舗での購買を融合させるOMO(ネットとリアルの融合)の取り組みを活発化させるケースが目立った。2024年もOMOの取り組みは加速しそうだ。人手不足やトラックドライバーの残業規制、エネルギーコスト高騰などによる配送費や物流費の値上げの動きも止まらない。政府による広告規制も追い打ちをかける。日本ネット経済新聞の記者が、「OMO」「物流」「法規制」をテーマに、2023年を振り返りつつ2024年の予測を語った。追い風のEC市場で、注目すべきサービスや事業者についても紹介する。
手塚:2023年は「リアル回帰」を迎えた。「ECからリアルに顧客が流れる」傾向が顕著だった。逆に、「リアルが盛り上がった分、リアルからECへ顧客を持っていきたい」という狙いで、ECとリアルを融合させるOMOの取り組みも、より一層進んだ。後藤記者はどうみているか。
後藤:アパレル企業を中心に、OMOの取り組みが進んだと思う。インテリアのEC市場においても、OMOの展開が目立った1年だったと感じている。
永井:化粧品EC市場ではリアルと連動したコンテンツを発信する企業が多い。アイスタイルの実店舗では、美容部員がライブコマースを実施しており、平均の視聴回数が数千人と好評だそうだ。
大手がECに本格進出し、店販・ECのノウハウを活用しつつ、OMOのサービスやコンテンツを提供し始めている。大手がOMOサービスのレベルを引き上げており利用する消費者の基準も上がったと感じている。
手塚:テナントによっては、店舗からのライブコマースが行えないケースも少なくないようだ。最近では、店内からライブコマースをすることをあらかじめ織り込んで店舗を作る企業も増えている。
永井:ライブコマースの分野では越境EC・インバウンド向けのOMO施策も登場してきている。2023年1月にオープンした、羽田空港国際線ターミナル・到着ロビー直結の商業施設「羽田エアポートガーデン」には、ライブコマーススタジオを完備した店舗もある。
手塚:OMO展開に適した店舗・施設を設けるデベロッパーもいるようだ。空港というと、上山記者もANAを取材しているが、OMOの展開はどうか。
上山:コロナ禍が明け、出張者など空港の利用者が戻ってきた。そうした背景を踏まえANAでは、全日空商事のECサイト「A‐style(エースタイル)」と、空港の実店舗「ANA FESTA(アナフェスタ)」を連動させた店舗を日本国内向けに開設した。2023年10月には、事前にECで決済した商品を出張先の空港でピックアップできる取り組みが始まった。
手塚:旅行者も増えている。「旅」の分野でもOMOが進むだろう。いずれにせよ「OMO」というワードが一般的になってきたと感じている。以前は、「オムニチャネル」という言い方が多かった。「オムニチャネル」は、「ネットとリアルで同じものが買える」というような曖昧な定義だったのではないか。主に、「在庫を統一化する」点が重要で、物流の取り組みを指していたとも思う。
そこから、会員データを連携する動きも進み、販促においてもリアルとオンラインで連動させるなど、施策として展開が拡大していった。スタッフがオンラインで発信するようなコンテンツは、アパレル業界ではすでに定番の取り組みとなっている。ライブコマースを精力的に行うブランドも多い。
「リアル回帰」を迎えた現在も、店舗スタッフのオンライン活用は継続しようという流れだ。参加人数は増え続けており、2023年に目立った変化の一つといえるのではないか。
【記者が考える2024年のキーワード】
▲手塚康輔記者
「勝てる領域を見極めろ」 EC市場の成長が鈍化している。これまで通りだと成長は継続できない。勝てる領域にリソースを集中すべきだ。
<今後は「通常の店舗」が「OMO店舗」に>
黒田:そごう・西武のOMO型ストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」など、無人店舗も活性化した印象がある。
永井:同ストアは2021年、東京の西武渋谷店内にオープンした。店舗内で商品のQRコードを読み込むと、専用のECサイトから商品を購入でき、好評だと聞いている。ニーズの高さを受け同社は2023年9月にも食のOMOストアをそごう千葉店内に開設した。
手塚:無人店舗は、リアル回帰で人流が増えている点に対応できる上、よりコストを抑えたいというニーズにも応えられるだろう。2024年の市場予測についても聞きたい。後藤記者はどうみているか。
後藤:インテリア分野ではベガコーポレーションが積極的に動いている。同社では2023年4月、「LOWYA(ロウヤ)」初の直営店として福岡店をオープンした。オープンの際は多くの人が訪れたという。福岡店はOMOのスタート店。完成形ではなく今後の出店拡大を通して完成形に近づける計画のようだ。
ECで売る力が強いベガコーポレーションだが、彼らが本当に強いのはSNSなどで顧客としっかりコミュニケーションが取れている部分だと思っている。現在はコミュニティーも展開しておりSNSの基盤を店舗にも落とし込めている。店舗を展開したエリアのEC化率に変化が出ているというポジティブな話も聞いている。確実に成果が出ており今後の動向が楽しみだ。
手塚:ベガコーポレーションは来年以降、どんな店舗を展開していくのか?
後藤:OMOの取り組みを行う実店舗は、大阪・難波や、2024年春頃に名古屋への展開が決まっている。通常インテリアの店舗では、空間の広さやスタッフ数などの制約があり、長期間レイアウトが同じであることが多い。一方、同社の店舗の設計は、スタッフが定期的にレイアウトを変えていくという。
手塚:日々コンテンツや見せ方を変えている、ECサイトのような取り組みとも言える。
後藤:ECサイトの動きや、季節、特集などに合わせつつ、仕掛けていくのだろう。
他のインテリアのEC企業でも、積極的な店舗展開が続いている。店舗での接客や、「実物を触る」といった体験に、主眼が置かれているようだ。2024年は、各社からこうした情報が多数出てくるのではないか。
手塚:インテリアのEC化率は10%に満たない。店舗があることで周辺エリアの顧客との接点が増え、ECにも流入する可能性がある。永井記者の2024年の市場予測は?
永井:化粧品ECにおいては「リアルで接客するとLTVが上がる」とされている。アフターコロナになり今後一層EC事業者によるリアルの接点作りが活発化していくだろう。
手塚:アパレル大手では、試験的にOMO型店舗を展開していた。アダストリアやベイクルーズなどのOMO型店舗では、デジタルサイネージを設置し、ECのコンテンツを配信したりしていた。
恐らく今後はOMOとうたって新店舗を作るというよりは、「通常の店舗がOMO型店舗」になるのではないか。店舗リニューアルや新規出店の際、オンラインとの連動も見据えながら行うようになると考えられる。
店舗スタッフについても、OMOの取り組みが当たり前になっているように思う。オンラインでは、普段からライブコマース・ライブ配信などでつながり、リアルでは、よりリッチな体験を提供するといったケースが、今後さらに増えていくだろう。
<「利便性」「限定感」「体験」がキーワード>
手塚:上山記者の2024年予測は?
上山:先ほどの空港のOMOサービスの事例のように、ユーザーの利便性を高める施策や、活用の仕方は、今後増えていくとみている。
手塚:確かに、「利便性」「限定感」など、リアルの価値が土台にあって活用されるECが、さらに増えていく可能性を感じている。例えば、ディズニーランドも専用のアプリがあり、パーク内に入っている人だけ使えるECサイトがある。「パーク限定のキャラクターグッズをお土産で購入したい」という人は多いが、「購入列が長く、時間がかかる」「荷物になる」といった負の部分がある。そこを解消するために、パーク来場者専用のアプリECが活用されている。
手塚:EC業界を取材していると「体験」というキーワードを聞く機会が増えているのではないか。コロナ禍では、体験が抑制された。今、そうした制限から解放され、ようやく外で「コト消費」ができるようになった。より、「体験の魅力」を感じ始めているのではないか。「体験を付加価値にしたEC」も今後も増え続けるだろう。
【記者が考える2024年のキーワード】
▲永井愛理記者
「ECサービスの水準が向上」 コロナ禍を経て、OMOなどを含め、消費者に提供されるECサービスの水準が向上。今後標準化するだろう。