文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)は2024年1月10日、「大学発新産業創出基金事業」に関する記者説明会を開催。日本から国際市場展開まで成長する本格的なユニコーン(企業価値10億ドル超の非上場企業)の創出などを目指した同事業の最新の取り組みについての解説を行った。

説明会には、JSTからは森本茂雄理事、ならびに同事業のガバニングボード委員長を務めるケイエスピーの窪田規一 代表取締役社長(注)が出席。「大学発スタートアップ企業を創出するための抜本的強化策として同事業を実施している」とした。現時点で同事業は988億円の基金で運営される見通しだが、これは令和4年度時点での概算見通しで、その後の施策改善もある見込みである。

  • ガバニングボードのメンバー

    ガバニングボードのメンバー (出所:JST)

注:ガバニングボードの委員長を務めている窪田規一氏は、現在はインキュベーション事業を展開するケイエスピー(川崎市)の社長を務めている。その前は、東京大学の菅裕明教授が研究開発した特殊ペプチドを利用するベンチャー企業のペプチドリーム(川崎市)に経営陣として参画、2017年9月に代表取締役に就任している。ペプチドリームは、2013年6月11日、東証マザーズに株式公開した後、2015年12月16日に東証1部に市場変更した大学発ベンチャーの成功例の代表格として知られている。

窪田氏は、この事業によって「日本の大学の研究開発成果を基にしたスタートアップ企業の中から、その事業の独自性によって国際市場で展開する成功事例をつくりたい」と力説。そのために、今回から企業直後のスタートアップ企業を強力に支援することを目的に、「スタートアップに対する支援資金の前払い(概算払いなど)を可能とし、当該スタートアップ企業の所得財産の帰属を認めるなどの改革を実施する」という。この支援期間は最長1年で、資金は1億円程度までの見通しとしている。

また、その当該スタートアップが出願した特許や試作品などの取得財産の帰属も認めるとしており、これにより、その当該スタートアップは企業価値が高まる効果を得ることができるようになるとする。こうした取り組みにより、外部の金融機関からの資金調達もしやすくなる効果が期待できるとする。こうした改善により、当該スタートアップのシード期の事業展開が加速できる可能性が高まる見込みだ。

こうした取り組みを経て当該スタートアップがビジネスとしての可能性が評価できるレベルに到達すると、「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Ggobal)」という制度の利用対象企業となり、研究開発費として原則3億円(上限5億円)の投資対象にもなる見込みがでてくる。「ここまで到達すると、外部機関から事業展開の資金調達ができる可能性も出てくる」という。

日本のスタートアップからユニコーンへと育つ企業が増えていくことで、将来、日本の高校生などが大学へと進学した際に、スタートアップを起業しようとする学生も増えることが期待される。「目指す状況に向けて加速させていくアントレプレナーシップ教育の機会を増やす施策も拡大する計画だ」と、森本理事は語っている。