「縦の渦巻き」と「横の渦巻き」を意識して
─ 自分たちの本領をどう発揮していくかということですね。都心インフラ、特に渋谷を中心とした再開発を推進してきた東急会長の野本弘文さん、これからの都市開発のあり方は?
野本 東急の各事業はコロナ禍で大きなダメージを受けましたが、今は、これまでのマイナスを取り返す時期です。新体制にもなりましたが、攻めることが守りにもなり、次の成長にもつながります。社員が前向きに「自分達はやれるんだ」ということを思い起こさせるためにメッセージを出しています。
当社は鉄道が起点ですが、まちづくりの中の鉄道、交通であり、生活者がベースにあります。その方々が住む街を安心で快適にするために、我々は何を提供すべきかを考え続けてきました。
─ 常に原点を思い起こすことが大事だと。
野本 ええ。私は社長就任時に「3つの日本一」「ひとつの東急」を掲げましたが、これをさらに進化させようと。今、常に伝えているのは「楽しさ」「豊かさ」「美しさ」が大事だということです。我々がそういう視点で事業に取り組むことで、お客様が価値を見出してくれます。
─ 渋谷は訪れる度に変化がある街になりましたね。
野本 はい。私が渋谷を担当し始めたのは07年のことですが、当時は都市のランキング調査で順位が落ちていました。そこで渋谷に訪れたいと思っていただくために「エンタテイメントシティSHIBUYA」を標榜して取り組んできました。
単に建物を建て替えるだけでなく、訪れた人が楽しさ、豊かさを感じる場所が必要だということで「渋谷ヒカリエ」に劇場「シアターオーブ」を、「渋谷スクランブルスクエア」に展望施設「渋谷スカイ」を設けるなどしたのです。
今は海外から来た方々にとって日本で一番訪れたい街の1位が渋谷です。私が社長に就任した時に考えたことが実現できて、本当に嬉しく思っています。
─ 渋谷は人と人が出会い、新たなものを創る街だと。
野本 ええ。人が出会うためにも動線が大事だということで、渋谷駅周辺開発では人工地盤や歩行者デッキ整備が大事だと考えてきました。この地盤やデッキによって、駅周辺の施設が全てつながります。単につながるだけでなく、皆さんが駅に留まらずに街に出て行くのです。
私が言い続けてきたのは「縦の渦巻きと横の渦巻きを意識しよう」ということです。地下から上がってくる人の流れで「縦の渦巻き」が生まれ、駅周辺の再開発プロジェクトが生み出す「横の渦巻き」が合わさることで、渋谷全体が螺旋状に進化していくという考え方です。
常に新しいものを取り入れ、街を訪れたくなるような仕組みを創り続けることが大事です。