東京大学(東大)は1月10日、溶媒内で超音波処理を行うことでサブナノスケール厚の2次元半導体単層を選択的に単離する手法を見出したと発表した。

同成果は、東大大学院総合文化研究科の中本竜弥 特別研究学生(研究当時)、同 松山圭吾 特別研究学生(研究当時)、同 酒井正弘 学術専門職員、同 桐谷乃輔 准教授、大阪公立大学 大学院工学研究科の吉村武 准教授、同 藤村紀文 教授、Department of Materials Science and Engineering,National Tsing Hua UniversityのChieh-Ting Chen博士研究員、同 Yu-lun Cheuch教授、立命館大学 理工学部電気電子工学科の毛利真一郎 准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会の科学雑誌「ACS NANO」に掲載された。

  • 今回の研究で提案した超音波手法のイメージ

    今回の研究で提案した超音波手法のイメージ (出所:東大)

2次元(2D)半導体は、数原子で形成された単層(約1nmほど)であっても半導体としての挙動を示し、省電力・高速動作を可能にする次世代デバイスの有力な材料候補として期待されている。その多くは、接着テープに貼り付けた2D半導体結晶に対して剥離を繰り返して薄くした後、基板上へと転写する「剥離法」と呼ばれる結晶調製方法により、簡単かつ良質な結晶性の極薄膜を得ることができるため、世界中で研究が進められている。しかし、単層と同時に99%を占める多量の厚いバルク結晶も基板上に付随して得られてしまうため、実際にデバイスを設計する際には、多量に点在するバルク結晶を避けながら単層結晶を利用する必要があり、デバイス設計の自由度が低下してしまう課題があったという。例えるならば、散らかった机の上、空間的な自由度が少ない環境下で精密な作業を行うことが困難であるのと同じだと研究チームでは説明しており、その解決に向け、バルク結晶を選択的に除去しつつ、単層だけを基板上へと残す単離手法の実現が望まれていたという。

しかし従来の剥離法で転写されたバルク結晶は基板と強く相互作用しているために、選択的に取り除くことは難しいと考えられており、単層を用いた研究では、不要なバルク結晶により生産性や拡張性に大きな制限が課されている状況が続いていたとする。

そこで今回の研究では、バルク結晶だけを選択的に除くことで単層結晶の周囲に利用できるスペースを生み出すことを目指して選択的に単離する手法を考案。実際には、溶媒内で超音波処理を用いることで、MoS2をはじめとした遷移金属元素とカルコゲン元素により組み上がった層状の結晶性化合物群である「遷移金属カルコゲナイド」の単層の結晶を1分ほどで基板上に単離できることを確認したとする。

また、なぜバルク結晶が優先的に基板から除かれるのかについて調べたところ、単層とバルク結晶における界面が劈開となっており、面内断裂強度の違いによって選択的に分離できることが示されたと説明している。

研究では、実際に単離した単層を用いて、全方向から多数の電極を有するデバイスを作製。剥離法によって調製された単層であっても複雑な電極デザインの作成が可能となることも示している。

  • 孤立化させた単層を用いた多数電極を有するデバイス

    孤立化させた単層を用いた多数電極を有するデバイス(出所:東大)

なお研究チームでは、今回提案した手法を活用することで、従来では困難であった多数電極を有したデバイスを効率良く作製することが可能となるため、今後の高度なデバイスの試作や2D半導体物性の開拓に役立つだろうとしている。