リコーは、2023年12月13日から15日にかけて東京ビッグサイトで開催された「JAPAN BUILD‐建築の先端技術展‐」内の「建築DX展」に出展し、360度カメラ「RICOH THETA」を活用した現場モニタリングシステムや、建物の空間情報をデジタル化するための作業を容易にするため開発を進める新デバイスを紹介した。

  • 「JAPAN BUILD」のリコーブース

    「JAPAN BUILD」のリコーブースの様子

このイベントに際し同社は、「リコーの建設現場DXへの取り組み」に関する説明会を実施。複合機を中心とするOA機器を主力事業として提供してきたリコーが、今なぜ建築業界のDXサービスに参入するのか。その狙いや強み、そして実証実験中の空間利活用ソリューションにおける進展について説明した。

「デジタルサービスの会社」への変革を目指すリコーの挑戦

日本有数のOA機器メーカーとして知られるリコーは、2020年から“デジタルサービスの会社”への変革を着実に進めている。同社が保有するデジタル技術を活用して新たな価値を創造することが狙いだ。また、創業100周年の節目となる2036年に向けては「“はたらく”に歓びを」というメッセージを掲げ、ワークフローの改善や業務効率化により、労働に従事する人々の環境改善にも取り組んでいるとする。

リコーはこうした変革に向け、THETAをはじめとするカメラデバイスの開発によって培われたノウハウを活用。光学技術に加え、近年の進化が著しい画像処理技術、さらには機械学習・AI技術など複合的な技術を融合させることで、新たなソリューションの創出を目指している。

建設業の課題解決に向け大企業との共創を目指す

それらサービスのユースケースとして同社が設定している業界の1つが、建設業だ。人手不足や労働現場における危険、知見の属人化などさまざまな課題を抱える建設業においては、その改善に対するニーズが山積している。リコーはこうした課題の解決に向けて、主に14の取り組みを設定。工事現場の検査業務、生産性向上などに向けた新技術の開発を進めるという。

建設業界へのソリューション提供を見据え、中小企業向けにはパッケージ化されたサービスとしての展開を想定しているとのこと。一方で大企業との間では、互いに連携しながら開発を進める“共創”の形を目指しているとする。その理由についてリコー デジタルサービスビジネスユニット デジタルサービス開発本部 日本極第二開発センターの永倉義輝所長は「我々は建設業を生業としている企業ではない」としたうえで、「共創という形で新たなサービスを一緒に創出していきたい」と話した。

時空間の制約を無くすデジタルツインサービスの開発に注力

リコーが実現を目指す建設技術のコンセプトは、「直感化」と「知能化」の2つだ。前者については、現実世界のデータ化によりデジタルツインを構築し、関連情報との紐付けによるデジタル管理のDXや遠隔コミュニケーションの実現など、時間と空間の制約から解放された作業現場の実現につながるとする。一方の後者は、デジタルツイン上に集結したさまざまなデータを活用し、AIとの協働によってさらに高次元の作業を可能にするもの。将来的にはAIが自動的に仕事を進め、さらに効率的な作業を実現できる可能性もあるという。

その実現に向けて同社が開発を進めているのが、空間のキャプチャを簡易化する「3D復元デバイス」だ。今回の展示では、新たに実用に向けてブラッシュアップされた新プロトタイプが公開された。同デバイスは、THETAと共通の機構を用いたカメラと、3セット搭載された測距レーダにより、RGB画像と点群データを同時に収集。約1秒の1ショットで、360度・半径5mの空間を7Kの高画質で撮影する。また取得したデータはAIを用いて自動処理を行い、現実空間と瓜二つのデジタルツインとして出力。Webアプリ上でも閲覧が可能になるとする。

  • 今回公開された3D復元デバイスの新プロトタイプ

    今回公開された3D復元デバイスの新プロトタイプ。重量は2kgで、今後はさらなる軽量化を目指すという

またJAPAN BUILDの会場では、実際に3D復元デバイスを用いて当日朝に撮影したリコーブースの様子を、3D空間データとして展示。短時間での撮影およびデータ出力の利便性をアピールした。また、デジタルツインの内部に没入することでより直感的な作業を可能にするVRアプリケーションの体験展示も行われた。

  • 3D復元デバイスで当日に撮影したデータをもとにした3D空間データ

    3D復元デバイスで当日に撮影したデータをもとにした3D空間データ。画像は画像処理を加え解像度を上げたもの(提供:リコー)

持ち運びがしやすい同デバイスを用いた撮影が可能になることで、人が入り込みにくい場所や手が届きにくい天井近くなど、空間全体をスムーズにデジタルツインへと変換することが可能に。さらに今後の開発の方向性としては、空間内の物体を自動で認識・分類したり、建具や設備のモデリングを自動化したりすることで、より効率的な空間再現を目指すとする。リコー デジタル戦略部 プラットフォーム推進センター ワークプレイス基盤開発室の松野陽一郎室長は、「撮影したデータからAIが自動で物体を認識できるようにし、それらを基に設備管理や配線の把握などを効率化していきたい」と語る。

この3D復元デバイスを用いたデジタルツイン構築サービスについては、2023年10月より有償での実証実験が開始されている。サービス形態については、リコーの人員が現地へと赴いて撮影を行う形で構想しているとのこと。実際に実証実験の事例は複数進行しており、さまざまな建物におけるデータ収集を行ったうえでデジタルツインの構築をまさに進めている最中で、2024年3月末ごろにはそれらの結果も出てくるだろうとしている。

  • 3D復元デバイスによる空間撮影のイメージ

    3D復元デバイスによる空間撮影のイメージ(提供:リコー)