【2024年をどう占う?】答える人 大正製薬ホールディングス社長・上原明

自分の健康は自分で守る原則を教育機関は自らが変わるべき

 ─ 社会保障の負担が経済全体に大きな影響を及ぼすようになったいま、大正製薬ホールディングス社長の上原明さん、財源に限りがある中で「自らの身は自ら守る」原則を訴えていますね。

 上原 23年度予算では114兆円の一般会計歳出における社会保障費が約32%を占めています。国民皆保険制度で高齢・長寿社会になったことは素晴らしいのですが、社会を取り巻く環境も変化しているのですから社会保障の在り方も変えていく必要があります。

 もはや、すべてを国に頼る時代ではありません。一番重要なことは「自分の健康は自分のために自分で守る」ということです。命に関わる新薬の開発などは国の保険でカバーすべきですが、何でもかんでも医療機関に頼るという考え方は変えていかなければならないと思います。

 ─ コロナ禍の教訓ですね。

 上原 はい。教育でも日頃から栄養と運動と休養という3つの基本的な体の発育に関する知識を勉強させることが大事です。そのためには生活者自身がそういう意識を持たないといけません。今回のコロナでも、うがいや手洗いなどを習慣づける必要性が再認識されたと思います。

 ─ その意味ではOTC(一般用医薬品)の出番ですね。

 上原 ええ。ただ、医療用医薬品のうち副作用が少なく安全性の高いものを市販薬に転用するスイッチOTCがあるのですが、あまり移行できていません。当社の売上高も22年にやっと3000億円になりました。2000億円になったのが92年ですから、30年もかかったことになります。結局は、規制の壁が高いということです。

 ─ 構造的な問題ですね。

 上原 はい。世界的に格差の問題が広がると共に、高齢・長寿社会の到来を迎えています。同時に、スマホなどで情報発信や情報に接することができる生活者主体の時代になりました。更には資源の使い方も大きな課題です。そういった複合的な課題をどう解決していくか。これを解決するためには、やはり人材の教育・育成しかありません。

 ─ 人材育成では、上原さんは城西大学の理事長です。

 上原 課題をどう解くか。そういった人材が求められてきます。暗記よりも現場を歩き、情報を集め、それを整理し、課題を見つけて、それをどう解くかを皆で議論し合う。そもそも問題意識を持っている若い人も増えています。ある高校では僻地医療はどうあるべきかを現地で情報収取した後、議論したりしています。ところが大学はまだ変わっていない教職員が多いのです。学生だけでなく、教育機関の先生や職員たちも考え方を変えなければなりません。