宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月5日、X線分光撮像衛星「XRISM」が撮影したファーストライト画像を公開した。XRISMは2023年9月7日に、H-IIAロケット47号機で打ち上げに成功。これまで、衛星の機能確認を進めており、その中で試験的に観測したこのデータからは、期待通りの高い性能が見えてきた。なお、衛星の状態は正常だという。
XRISMは、2016年2月に打ち上げ、そのわずか1カ月後に通信が途絶して失われたX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の代替機として、開発がスタート。ロバスト性を向上させるため、XRISMの衛星バスではスタートラッカ、太陽センサー、故障検知機能などの設計を変更していたが、これらは全て正常に動作しているという。
XRISMには、「軟X線撮像装置(Xtend)」と「軟X線分光装置(Resolve)」という2つの観測装置を搭載している。Xtendは、予定通り検出器であるX線CCDを-110℃に冷却。Resolveも、検出器のX線マイクロカロリメータを-273.1℃(0.05K)に冷却できており、分光性能は要求仕様が7eVだったところ、それを上回る5eVという高い性能を確認した。
今のところ、初期機能確認運用はほぼ順調に進んでいるものの、Resolveについては、当初の運用で計画していた保護膜の開放がまだできていないという。この膜は、地球大気やアウトガスから検出器を保護するために設置されているもの。ハーネスやOリングが低温で固かった影響が考えられており、温度を上げて再挑戦することを検討中だ。
ただ、この保護膜は250μm厚というベリリウム製の薄膜のため、観測に対する影響は非常に限定的だ。もし開放できずに装着したままであっても、高エネルギーのX線はそのまま透過。1.8keV程度以下の低エネルギー側で感度が下がるが、後述のようにすでに高い性能は明らかになっており、開放できなくても予定通り定常運用に移行する予定だ。
ファーストライトは、XtendとResolveの両方で取得に成功した。Xtendは、7.7億光年の距離にある衝突銀河団「Abell 2319」を観測。Xtendは、X線天文衛星「すざく」の4倍も広い視野が大きな特徴なのだが、このファーストライト画像では、銀河団の外縁部まで構造が明瞭にとらえられており、想定通りの画像が得られていることが確認できた。
一方Resolveは、大マゼラン星雲にある超新星残骸「N132D」の観測を行った。Resolveは、すざくから分光能力が30倍も向上していることが特徴であるが、取得したX線スペクトルを見ると、ケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウム、鉄などの元素の存在を示すX線輝線が非常に鋭く立っており、その高い精度が分かる。
このN132Dはすざくでも観測を行っていたが、アルゴン、カルシウム、鉄のピークは低くて目立たなかった。田代信プリンシパルインベスティゲータ(研究主宰者)は、「同じものを見ているとは思えない」と驚愕。「2倍や3倍、ひょっとすると桁違いの情報があるかも。やることがすごく増えてワクワクしている」と、興奮を隠せなかった。
記者説明会には、前ESA科学局プログラム室長のFabio Favata氏がゲストとして参加した。自身もX線天文学者であったことを紹介した上で、「XRISMの前後では、宇宙の姿が変わって見えるだろう」と指摘。「次世代のミッションでは何をすべきかということの道しるべにもなる」と、プロジェクトを称賛した。
XRISMは今後、2月より定常運用を開始する計画。最初の6カ月は、初期性能確認観測として、事前に選定した約50の候補天体から観測を始め、その後、全世界の研究者から観測提案を受け付ける公募観測を実施する。XRISMの設計寿命は3年だが、衛星の状態が健全であれば、さらに後期運用として観測を継続することになる。
Resolveの絶対零度に近い冷却には、液体ヘリウムを使用しており、これは軌道上で徐々に減少していく。残量には余裕を持たせているため、3年ですぐに無くなるわけではないものの、液体ヘリウムが尽きた後でも、機械式冷凍機だけで観測が可能なように設計されているとのこと。順調に行けば、長期的な運用も期待できるだろう。
XRISMは、衛星喪失後の再チャレンジということで、前島弘則プロジェクトマネージャはかなりの重圧を感じていただろうが、「ファーストライトが出たとき、科学者達の議論が尽きない様子を見て、良かったなと思った」と、心情を吐露。「これを使って、科学的成果をどんどん出して欲しい」と、笑顔を見せた。