ファーウェイが2023年末に発表したノートPC「Qingyun L540」。5nmプロセスを採用した独自(子会社のHiSilicon)設計のSoC「Kirin 9006C」 が搭載されていたことから、米国の規制対象となっている同社に対して誰がそれを製造したのかといった憶測で盛り上がる事態となっている。
中国の半導体製造技術の進歩の結果か、それとも米国の規制よりも前から同社が確保しておいたものなのか、さまざまな憶測が飛び交う中、半導体リバースエンジニアリング会社である加TechInsightsが、実際にノートPCを入手し、そのSoCの分析を行ったことを報告した。
その分析速報によると、Kirin 9006CはTSMCで製造された可能性が高いとされ、SMICの関与に関する議論は払拭されることとなった。
また、Kirin 9006Cのパッケージに記されたマーキング(図3)は、2020年後半に分析されたKirin 9000のパッケージマーキングと酷似。違いとしては従来の「Hi36A0」に「C」の 文字が追加されたほか、台湾を意味する「TW」の代わりに中国を意味する「CN」というマークがつけられた程度。パッケージングが台湾ではなく中国で行われたことを意味しているとする。また、CNの前には「2035」と記載されているが、これは2020年の第35週にパッケージングされたことを示すものだという。
さらにダイ(図4)を取り出して分析したところ、Kirin 9000と同一のダイマーキングと金属層パターン、同じダイサイズであることも判明。この段階で、TechInsightsでは、Kirin 9000とKirin 9006CいずれもTSMCで製造された同じダイであると判断したという。また、ダイのBEOLメタル層における重要部分の寸法を計測したところ、Kirin 9006Cは、ほかの9000シリーズと同様にTSMCの5nm(N5)プロセスを使用して製造されたとの確証を得たという。
これらの詳細な分析結果については、今後数週間以内に同社の有料購読者に通知する予定だという。また、今回のQingyun L540の分析調査をTechInsightsに依頼したのはBloombergだという。
TSMCは米国政府の指示でファーウェイとの関係を断つ前は、当時の最先端であった5nmプロセス採用のSoCをファーウェイに供給していた。ファーウェイは2019年5月に米国政府が米国技術の禁輸対象とする「エンティティリスト」に記載されたが、TSMCが米国の輸出規制強化(第三国で製造された製品の輸出規制)に対応する必要が生じたのは2020年夏以降のことである。
ファーウェイが3年以上前に製造されたプロセッサをどのように調達したのかは不明だが、同社は米国による規制強化前に重要な半導体製品を優先して買い求め、それを備蓄していたものとみられる。
なおファーウェイは現在、中国の新センに別企業名義で3つの半導体工場を建設中であることをBloombergが報じており、半導体を自ら製造する準備を進めていると考えられるが、ファーウェイ自身がこれらの取り組みについての詳細を明らかにしておらず、どの程度の微細化にまで対応が可能であるかは不明である。