ChatGPTが登場して1年ほど経つが、2023年は生成AIが世間にかなり浸透した年だったように感じる。実際、書店で生成AIを紹介する本や上手に使いこなすための手技を紹介する本を目にする機会が増えたし、ユーキャンが発表した新語・流行語大賞でも「生成AI」がトップテン入りを果たしている。
ソフトバンクが発表した「2023年IT流行語ランキング」においても、2位以下に圧倒的な差を付けて「生成AI」が支持率1位となった。
このように生成AIが私たちの生活を変えつつある中で、デル・テクノロジーズ(以下、デル)は2023年、生成AIの活用について「AI on」「AI in」「AI for」「AI with」という4つの柱を打ち立てた。同社の大塚俊彦社長に2023年のビジネス状況を振り返ってもらうとともに、AI戦略に関する展望について聞いた。
また、同社は「AI・データマネジメント」「マルチクラウド」「エッジ」「フューチャー・オブ・ワーク」「セキュリティ」の5領域で戦略を打ち立てている。これらの領域において、グローバル全体でソリューションへの投資や営業活動を注力してきたのだという。デルのグローバル戦略上でも日本市場への期待は高く、最優先国の一つに位置付けられているそうだ。
2023年5月31日掲載:DellのAI戦略は「AI-In、AI-On、AI-For、AI-With」 - Dell CTO語る
2023年9月29日掲載:デルが手掛けるAIビジネスの4本柱 - 開発者中心のAI活用で社内のDXにも注力
2023年は日本でもDXが進捗、議論の中身はビジネスの成果に
2023年10月に国内で開催したDell Technologies Forum 2023 - Japanの中で、大塚氏は「日本企業はイノベーションのポテンシャルがある」と語っていたが、依然その見方は変わっていないようだ。
欧米企業と比較して進捗が遅れている日本企業のクラウド化に対して、デルはグローバルにソリューションを展開している強みを生かすという。導入事例を含めたグローバル全体での同社の知見を活用して、日本市場の顧客にコンサルティングを含めた各種ソリューションを提供していく方針だ。
大塚氏は「クラウドの活用以上に、AIの利活用について日本と欧米の差を感じます。日本の企業や人材は優れた品質やクオリティ、信頼性、そして高い技術を持っています。AIを活用するためのプラットフォームが整えば、日本企業の競争力強化、ひいては社会の発展にもつながると考えています」と語る。
もちろん、日本企業もAI活用に消極的なわけではない。新型コロナウイルスの猛威を乗り越えて少しずつ世間が活気を取り戻しつつある中、AI活用をはじめとするDX(デジタルトランスフォーメーション)を経営の最優先事項に掲げる経営者やCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)も多い。
「経営方針の中にデジタル戦略が出てこない企業はほとんどありません。そうした期待に応えるためにも、当社は技術的な価値向上やコストの低減だけではなく、今後は企業のデジタル変革とビジネス成果につながるDX支援を考えなければいけません」(大塚氏)
デルが掲げる4つのAI戦略
生成AIに話題が移ると、「非常にいい流れだと思います」と大塚氏は笑顔で反応した。「これだけ大きな関心をもって受け入れられ、現場社員から経営層まで使っている技術は素晴らしい」とも話していた。
ChatGPTが公開された2023年前半は、過半数の企業が生成AIを活用してどのような取り組みを始めたらいいのかを模索していた。しかし後半になると具体的なユースケースやPoC(Proof of Concept:概念実証)の事例も多くみられるようになった。
「生成AIは組織の生産性に寄与するだけでなく、顧客接点の変革などさまざまな場面で業務のクオリティを高めてくれます。多くの企業や経営者がそうした実感を持ち始めていることを頼もしく思いますし、お客様と一緒にこれからいろいろな可能性を追求していきたいです」と大塚氏は期待を寄せている。
先にも紹介したように、デルはAI活用を進める4本柱として、「AI on」「AI in」「AI for」「AI with」を掲げている。これら4つの戦略を具現化するために、2023年9月にはチーフ・AI・オフィサーも就任した。以下にそれぞれを簡単に紹介しよう。これらの4本柱は日本もグローバルでも共通している。
まず、AI onは"AI on our infrastructure"を意味する。顧客のAIソリューションを同社のインフラストラクチャで支援する戦略だ。ソリューションだけでなく、サービスやコンサルティングも含めて提供していく。
AI inは、自社製品にAIを組み込む戦略。例えばストレージ製品であれば、AIを活用した故障検知やパフォーマンス最適化などを組み込む。
AI forはデル社内のプロセスをAIで改善していく取り組みを指す。今年以降、具体的な取り組みの発表および紹介が控えているという。セールスやマーケティング、製品開発、コード生成など、業務を問わずにAIの活用を進めているとのこと。
最後に、AI withはパートナー企業を含めたエコシステム全体を活性化する取り組みだ。販売パートナーやインプリメンテーションパートナーらとの共創を促す。デル日本法人がオフィスを構えるOtemachi One タワー(東京地 千代田区)の17階には「AI Experience Zone」を設けるほか、「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」という新たな取り組みも実施中で、最新のAIに関する知見の共有やセミナー、AIを手掛けるパートナー企業とAIをこれから導入したい企業のマッチングなどで活動の輪を広げている。
2024年はAIソリューションをいち早く具現化するための支援に注力
AI4本柱のうち、特にAI onは多数のユースケースを作り出して検討するフェーズへと移行する。自社の事例だけでなくユーザーの事例をグローバル全体で集めながら、意見交換をより深めていく段階へと差し掛かっているという。ここでも、やはりグローバル全体にソリューションを展開するデルの強みが生きてくるのだろう。「お客様が描く構想をいち早く具現化するための支援がしたい」と大塚氏。
今後はAIの実現環境についてもハイブリッドクラウド・マルチクラウドへと移ることが予想される。米OpenAIに代表されるように、ハイパースケーラーをフルに活用してスケーラビリティとスピードを重視した生成AIの構築が進む一方で、企業固有あるいは業界独自のデータを使った独自のLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を構築する取り組みも一部で始まっている。
「クラウドコンピューティングの活用においては、複数のクラウドの利点をそれぞれ活用するマルチクラウドが当たり前になっています。同じように生成AIやLLMにおいても、ChatGPTのようにパブリックなLLMと、独自のプライベートなLLMを組み合わせて使うような例がこれから出てくるでしょう。双方のいいとこ取りにより、お客様が環境を構築するための支援を2024年はしていきたいです」(大塚氏)
2024年のデルはAI withの拡大も図る構えだ。まだまだ生成AIはユースケースの創出が待たれる段階であり、エコシステム全体の活性化は欠かせない。今後は同社ソリューションのエンドユーザーやアカデミアなども交えたコミュニティを活性化し、特にAIのフレーバーを加えながら共に成長を目指す。
2024年のデル・テクノロジーズは生成AIでどのように成長するのだろうか
2024年のIT市場について、大塚氏はポジティブに見ているという。AI活用や企業のDXへの投資はますます増大する傾向にあり、それに伴うデータセンターおよびインフラ製品、サービスプロバイダーの利用も増えると予想されるため、この上昇気流にうまく乗りたい。
デルが掲げる「AI・データマネジメント」「マルチクラウド」「エッジ」「フューチャー・オブ・ワーク」「セキュリティ」の5つの成長領域では、本年も引き続き投資を行っていくそうだ。中でも、大塚氏が注目するのが「マルチクラウド」「AI・データマネジメント」と「フューチャー・オブ・ワーク」の3つ。
マルチクラウドではAPEXが目玉となる。同社がマルチクラウド・バイ・デザインと称するように、行き当たりばったりではなくデザインされたマルチクラウドの利用を支援するソリューション群を拡充していく。
「パブリッククラウド・プライベートクラウド・コロケーション・エッジを縦横無尽に、そして適材適所に使いこなせる環境を作りたいと思っています。デジタル技術は企業のコスト低減だけでなく、ビジネス成果を生み出さなければ意味がありません。お客様のサービスやソリューションの開発スピードが上がり、いち早く市場で価値を発揮できるよう、当社はファウンデーションのような役割を果たしていきたいです」と、大塚氏は目標を語る。
APEXは昨年も多数のソリューションを拡充し、さまざまなユースケースを生み出してきたが、今年はさらに一歩進んで実装事例を拡大していくとのことだ。
AI・データマネジメントも同様に、ユースケースを創出する1年になりそうだ。AIもハイブリッド指向が強まると予想される中で、オープンな環境とプライベートな環境を上手につないで、最適なAI運用を支援していくという。
フューチャー・オブ・ワークでも生成AIが肝となる。MicrosoftがCopilot for Microsoft 365を発表しているように、これからはクライアント側に生成AIの活躍の場が広がっていくはずだ。これに対しデルは、より強力なエンジンを積みパワフルな処理が可能なデバイスによって、生成AIの活用を支援するとのことだ。
最後に、大塚氏の個人的な2024年の目標を聞いてみた。
「お客様やパートナー様をお迎えするオフィスの17階をもっと活用していきたいと思います。実はアイデアをいくつか温めているので、今年はお客様やパートナー様と一緒に新たな価値が作れそうです。社員や来客の皆様がワクワク働けるような場所を作って、コネクションやネットワーキングから生まれてくる新しいアイデアを楽しみにしています」と笑顔で語っていた。