新常設展示「老いパーク」オープン!
2023年11月22日(水)、日本科学未来館の新しい常設展示「老いパーク」が公開されました。
誰にでも訪れる未来である老いをさまざまな側面からひもとき、一人ひとりが自身の老いに思いを馳せる展示です。
私は、老いパークの企画・調査を担当した科学コミュニケーターの園山です。この度、老いパークにまつわるさまざまなトピックを紹介するブログシリーズを始めることにしました。
今回は第1回、そもそも老いパークってなに?というお話。
なぜ未来館で「老い」なの?
「老い」って未来っぽくないし、なんか嫌……。最初はそう感じる方もいるかもしれません。
でもね、老いはすべての人の未来です。『あなたとともに「未来」をつくる』というビジョンを掲げ、あらゆる人々に開かれた場を目指す未来館において、一人ひとりの未来に必ずついてくるこのテーマは不可欠だと考えました。老いを知り、語りあい、より能動的に向き合うきっかけになるような展示をつくりたいと、約2年の制作期間を経てこの展示は生まれました。
老いパーク クイックツアー!
では早速、老いパークがどんな展示なのか、紹介していきましょう。
展示入り口では、大きく光る「老」の字がお出迎え。その名の通り、パーク(公園)のような広々とした明るい空間に、フェンスや遊具などのモチーフを散りばめています。
ステップ1: 老いは何で決まるの? 誰が決めるの?
展示は大きく3ステップ構成。最初のステップでは、自分や社会の中にある「老いのイメージ」に目を向けます。
例えば、「老いは何歳から始まると思う?」と問われ、年齢を示す大きな数直線の上に自分の回答を表明します。「急に聞かれても困るな……」と思うかもしれませんが、それこそが狙いです。存分に悩んでください。そばにいる人と話し合っても良いでしょう。
またその隣では、「年齢」という軸で決められているルールやしきたりを紹介しています。三十路、不惑、還暦、前期高齢者、後期高齢者……。特定の年齢にまつわる言葉はたくさんありますね。年齢は生まれてから今までの経過時間のみを表す数字ですから、その人の心身の状態とは必ずしも一致しません。でも社会や文化の中では重要な数字として扱われることがあります。
老いは社会が決めている、という側面もあるかもしれません。
ステップ2: 体に起こることを知る
展示の中心となるステップ2では、主に科学と技術の側面から老いをひもときます。
目、耳、運動器、脳の4つについて、自然科学の側面からわかる老化(=体に起こる変化)を、ゲーム型の展示コンテンツを通して疑似体験できます。
今回は、目のコーナーを例に紹介しましょう。
例えば、「加齢性白内障」は、水晶体という部分がにごることで見え方が変化する現象です。視力低下だけでなく、ものが二重や三重に重なって見える、光が乱反射してまぶしく見えるなどさまざまな症状があります。テレビゲームを模した展示コンテンツを通して、白内障による見え方の変化を体験できます。
(※本展示で体験するのはあくまで一例です。老化は個人差が大きく、症状や度合いは人によって異なります。)
疑似体験した後は、その器官がはたらくしくみや老化について解説を読んで振り返りましょう。すでに老化を経験している人は、自分の体に起こっていることへの理解を深めることができます。
また、老化によってもし暮らしに困りごとが起こった場合に、必要に応じて選べる技術やサービス等を紹介しています。さらには、近い将来選べるようになるかもしれない研究開発中の技術にもふれています。
ステップ3: 自分自身の老いを考える
最後のステップでは、ステップ2までで体験したことや知ったことを材料にしつつ、科学や技術だけでは語り切れない、あなた自身の老いを考えます。
未来の老いのあり方を変えようとする研究者や、今まさに老いと伴走しながら生きている方々のインタビュー映像を見ながら、「70歳になったとき将来やりたいことはなんですか?」、「そのために、いま何を大切にしますか?」という2つの問いに対し、自分なりの回答を考え、投稿することができます。
「好きなことをたくさんして活動的に老いたい」という人もいれば、「な~んにもせず、のんびり老いたい」という人もいるでしょう。老い方に正解はありません。この展示が、一人ひとりにとっての望ましい老いを考える、ささやかなきっかけとなることを期待しています。
老いパークで考えてほしいこと
さて、ここまで展示の概要を簡単にご説明してきました。
まとめると、老いパークでは、
- 老いを、科学や社会の面からひもときます。
- 「体に起こる変化」を体験します。
- 「体に起こる変化」について科学的な理解を深めます。
- もし暮らしに困りごとが起こった場合、さまざまな選択肢があることを知ります。
- 老いにまつわる研究者や、老いと伴走する人々の声を聞きながら、自分自身の老いに思いを馳せます。
老いパークで主に体験できるのは、老いとともに起こる「体の変化」です。変化を知ることで、うまく付き合うことができます。変化を受け入れることも、なんとか対処して元に戻そうとすることもできるかもしれません。付き合い方は人それぞれです。
老いの当事者でない人はいません。明日のあなたは、今日より老いているはずです。
あなたは、どう老いたいですか?そのために、何を大切にしますか?
老いパークでの体験が、ちょっと具体的に未来を想像するはじめの一歩となりますように。
関連リンク
- 老いパーク | 日本科学未来館 (Miraikan) https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/future/oipark/
執筆: 園山 由希江(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
特別展、常設展、イベント等の企画・制作業務を担当。科学を入り口に、誰しもが部外者ではないと思える展示の実現を目指す。これまで特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」、特別企画「超人たちの人体」、リアル脱出ゲーム「人類滅亡からの脱出」等を担当。
【プロフィル】
幼少時代、毎週のように地元の科学館に通い詰め、科学にときめきを覚えました。大学時代、生物工学の教授がつぶやいた「僕はこんなにも不思議で面白いと思っているけれど、この感覚をみんなとシェアするためにはどうしたら良いだろう」という嘆きに強い共感を覚え、その答えを探すため未来館へ。
【分野・キーワード】
生命科学、再生医療