【2024年をどう占う?】答える人 日本商工会議所会頭・小林健

より賃上げしやすい環境を整えていくことが目標

 ─ 日本商工会議所会頭の小林健さん、就任1年の手応えをどのように感じていますか。

 小林 私は会頭就任時に「現場主義」「双方向主義」の継承・徹底、すなわち各地商工会議所及び会員企業との対話の機会を何より重視していきたいと申し上げ、それを実行してきた1年間でした。

 各地では、本当に一生懸命に地域経済のために活動されています。これらの現場の声を束ね、政府・与党などへ政策提言を出してきました。中小企業の事業承継やDXによる生産性向上など自己変革への挑戦が進んできています。2024年は各地のより小規模な事業者への経営支援の現場とも対話を進めていきたいと考えています。

 また、コロナ禍が収束する中、10月末にはフィリピン、マレーシア、シンガポールへ4年ぶりの海外ミッションを派遣しました。非常に有意義な交流ができまして、海外との経済交流は今後も続けたいと考えています。

 ─ その上で、日本経済の活性化を図るには、賃上げと価格転嫁の好循環をどう実現するかということになりますね。

 小林 かねてから政労使一致して、デフレ経済から脱却し、成長と分配の好循環を実現させていくという同じベクトルで動いてきましたが、これをより実効性の高いものにしていく必要があります。賃上げは掛け声だけでなく、継続的にそれを実現できる環境を整えていくことが今年の目標です。

 特に取引価格の適正化が重要です。商工会議所では「パートナーシップ構築宣言」を政府と共に推進していますが、昨年11月会頭に就任した頃はこれに賛同する企業が約1万5千社だったのが、今では3万8千社に増えています。政府や各自治体、業界団体等の強い働きかけもあって、経営者自身の意識も随分と変わってきました。材料費高騰の価格転嫁はかなり地合いができてきたと思います。

 ─ 大企業の理解もかなり進んできたと言えますか。

 小林 そう思います。企業は経済価値の向上を目指すと共に社会価値・環境価値の向上に務める必要があります。大企業は下請け企業の声にもっと耳を傾けるべきです。それが自社の成長に繋がります。我々の調査では、価格協議ができている中小企業の割合は7割超、コスト増加分の4割以上の価格に転嫁できた企業は5割となっています。これは大きな進歩と言って良く、2024年はさらにこの割合を増やしていきたいと思います。

 また、最も転嫁が難しい労務費について、政府から指針が示されました。賃上げを持続的なものとし、経済の好循環につなげるには、労務費の増加分についても転嫁できる商習慣づくりが大事だと考えています。そして、これがBtoC(消費者向け)企業の値上げする勇気にもつながっていくと思います。

第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生氏の提言「期待される来年の賃上げ」