日本一国主義になるな
─ ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さん、世界中で事業を展開する立場から、日本の立ち位置をどう考えていますか。
柳井 今はインターネットの発展に加え、クラウドコンピューティングや生成AI(人工知能)が発達し、情報がどんどん飛び交うような世界になっています。もう情報や金融、産業自体の境が無くなっていて、国の分断はあっても、経済や文化の分断はないと思っています。
その中で、日本は本当に良い立地にあって、アジアと西欧のちょうど中間にあり、今はインバウンド(訪日観光客)も数多く来ています。これは円安ということもありますが、それ以上に日本の文化が再評価されている。ですから、世界中で漫画のTシャツや浮世絵のTシャツがすごく売れています。
国と国では軍事的・政治的な分断があるかもしれませんが、経済や文化の面では境はありません。特に情報をつなぐという意味では、われわれの扱う服は平和産業ですから、国と国をつなぐ役割があると思いますし、これからも平和産業として立派にやっていけるのではないかと思います。
─ しかし、これだけ世界中で事業を行っていると、いろいろな問題も起きますよね。
柳井 いや、それはもう仕方ないことですし、一つひとつの課題を解決することが成長につながるのではないでしょうか。
逆にそういう課題を避けようとすると、余計にその課題が迫ってくる。だから、それを正面から解決するということが大事なことではないかと思います。
─ 柳井さんを見ていると、非常に強い生き方だなと思うんですが、心が折れそうになる時はありませんか?
柳井 いや、心が折れそうになっても、自分がしっかりしていればいいと思いますし、そんなに簡単に折れるようであれば、とっくに折れていますよ。折れたら、折れたで仕方ないと思いますけどね。
─ その前向きな開き直りがいいんですね。
柳井 やはり、そういう開き直りが無いと、正面突破はできないと思っています。
─ 柳井さんはこれまで人材育成にも注力してきたんですが、若い人へのメッセージは?
柳井 やはり、日本一国主義になるなということです。わたしは世界の中の日本が、何かどんどん退化しているように思うんですよ。しかし、世界の一員として、日本こそが世界をリードするくらいの気概を持ってやらないといけないと思いますし、そのためには、いろいろな国の人たち、あるいはいろいろな国の企業と一緒にコラボレーションしていって、世界で発展していくことが必要だと思います。