TSMCが米国アリゾナ州で建設を進めている半導体工場が、当面の間、多品種少量生産のミニラインになる可能性があるという話を同社のサプライチェーン関係者の情報として台湾DigiTimesが報じている。
TSMCは、2022年12月に米バイデン大統領を来賓に迎え、アリゾナ工場の「初ツールイン」(最初の半導体製造装置搬入)の式典を行うなど、一見すると同工場はスムーズに計画が進んでいるように見えたが、工場建設費の高騰、建設労働力の不足、労働組合とのトラブル、装置立ち上げ技術者不足、米国政府からの補助金未決定など、さまざまな困難が表面化している。
米国の半導体業界関係者によれば、TSMCは米国の職能別労働組合の強さを見誤っていた部分があるという。台湾からの建設労働者派遣に関して12月に入り、アリゾナ建築建設労働組合協議会(AZBTC)との間でようやくの妥協に至り協定を結んだ。TSMCはアリゾナ工場の開発を加速させることを目的に台湾から工場技術者を派遣しようとしているが、米国の労働団体はその派遣に対するビザ発給を阻止するため、同社に対するキャンペーンを積極展開している。そうしたこともあり、工場労働者や技術者の派遣に関して別の労働組合とも妥協しなければならない。
TSMCは、米国政府の要請で、アリゾナ工場で当初予定していた5nmプロセスから4nmプロセスでの製造へと修正したほか、プロジェクトの第2段階として3nmプロセスでの製造棟の計画を発表しているが、4nmプロセスの量産開始は、2024年から2025年へと1年延期となっており、3nmプロセスの量産も遅れる見込みである。
ただ、TSMCのアリゾナ工場は、米国の主要ベンダーであるApple、NVIDIA、AMDなどからの受注を確保しており、Intelも顧客になる模様である。TSMCのサプライチェーン関係者からの情報によると、これらの米国の大手ベンダーがTSMCのアリゾナ工場に発注したのは、ほとんどが米国政府の需要に対応したもので、その量は少量だという。TSMCの米国工場は、国防総省など米国政府の国内半導体製造の目的は達成されるものの、米国での製造コストが高く、生産能力も限られており、いまだ決まらない米国政府のCHIPS法に基づく補助金も期待に反して少額の見込みで採算が合いそうにはないので、TSMCへの発注のほとんどは台湾で行われる見込みであるという。
TSMCの会長退任はアリゾナ工場でのトラブルも一因の可能性
こうしたアリゾナ工場に関するさまざまな問題が、海外展開の責任者だったMark Liu会長の退任の一因と見なされると複数の台湾メディアが伝えている。
TSMCはカリスマ創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が2018年に引退後、これまで対外的な代表を務めるLiu会長と、内部で戦略や運営を担うCEOのWei氏が二人三脚で事業経営にあたってきたが、2024年からは新たな陣容で事業を展開していくことになる。