ノベルクリスタルテクノロジー(NCT)、信州大学(信大)、産業技術総合研究所(産総研)の3者は12月25日、垂直ブリッジマン(VB)法による6インチの「β型酸化ガリウム」(β-Ga2O3)単結晶の作製に成功したことを共同で発表した。
β-Ga2O3は、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)よりも大きなバンドギャップエネルギーを持つ優れたパワー半導体材料であり、より高性能なパワーデバイスを実現できる可能性がある。それに加え、シリコン同様に「融液成長法」によって高品質の単結晶基板を安価に製造可能という特徴がある。それらの長所を持つβ-Ga2O3を用いたパワーデバイスを実用化できれば、家電や電気自動車、さらには鉄道車両、産業用機器、太陽光発電、風力発電などのパワーエレクトロニクス機器のさらなる低損失・低コスト化を実現できるため、期待が寄せられている。
β-Ga2O3パワーデバイスを低コスト化し、広く社会に普及させるためには、β-Ga2O3基板の大口径化が必須で、単結晶の大型化が強く望まれている。信州大学はこれまで、VB法によるβ-Ga2O3単結晶育成技術を開発し、これまでに2インチおよび4インチの単結晶の作製に成功している。そして、信大より同技術の継承を受け、継続的に大口径化の開発を進めてきたのがNCTだ。そこで同社は今回、VB法による6インチ結晶育成装置を立ち上げ、VB法による6インチ単結晶の作製に挑んだとする。
従来のβ-Ga2O3単結晶作製技術として、EFG法がある。同手法は引き上げ法の1つであり、大きな成長速度を得やすい育成方法だ。しかし、得られる結晶が板状であり、そこから円形の基板をくり抜く必要があるため、加工時に不要部分が生じて高コスト化してしまうことや、β-Ga2O3結晶の強い異方性に起因して結晶引き上げ方向の制約が強く、得られる基板の面方位が限定されるという課題があった。
それに対し、今回開発が目指されたVB法は、原料を格納した坩堝(るつぼ)を温度勾配のある炉内に格納し、原料を溶融させた後に坩堝を引き下げて凝固させる育成方法である。よって坩堝と同じ形の結晶が得られるため、円筒形の坩堝を使えば円筒形の結晶が得られ、基板化加工の際の不要部分が大幅に少なく、それだけコストを削減できることになる。
さらに、引き上げ法による育成と異なり、坩堝内の融液を凝固させる育成法であるため、結晶の異方性に起因する成長面の制約を受けにくく、さまざまな基板の面方位を作製可能であり、EFG法の課題を解決できると期待されていた。それに加え、引き上げ法と比較して温度勾配が小さい環境での育成が可能であるため、結晶の高品質化が可能であることや、結晶成長方向に対して垂直に基板を取得できるため、ドーパント濃度の面内均一性の向上が期待できるといった優れた点も備えていたとする。
そして研究チームは今般、VB法による6インチβ-Ga2O3単結晶の作製に問題なく成功。種結晶から最終固化部まで透明であり、単結晶であることが確認された。また、定径部(最も径が広い部分)の直径は6インチ以上であり、6インチ基板を取得可能な結晶が得られたとしたうえで、種結晶の方位を引き継いだ単結晶を成長できていることもわかったとしている。
次に、EFG法およびVB法で育成した結晶の品質を比較するため、産総研において、結晶欠陥評価手法の1つであるX線トポグラフィ法を用いた結晶品質の評価が行われた。その結果、EFG法の基板には、直線状欠陥が高密度に発生していることが確認されたのに対し、VB法の基板には直線状欠陥がほぼ発生していないことが確かめられた。なお、VB法の基板表面に網目状に見えるものがあったが、それは転位網であると考えられるとのこと。EFG法の基板表面には網目状のコントラストが確認されないが、直線状欠陥などによる大きなひずみ場のため見えにくくなっていることが考えられるとする。
以上の観察結果から研究チームは、VB法を用いて作製した基板は、EFG法を用いて作製した基板よりも結晶品質が向上していることが明らかにされたとした。NCTは今後、VB法による高品質単結晶育成技術の開発を継続するとともに、同手法の長所である成長面方位の柔軟性を活かした基板開発に取り組むとしている。