酸化シリコン終端構造のダイヤモンドMOSFET開発背景
早稲田大学(早大)とPower Diamonds Systems(PDS)は、ダイヤモンド表面を酸化シリコン終端(C-Si-O終端)で覆う構造を採用することにより、ゲート電圧が0Vの時、トランジスタがオフ状態になる「ノーマリ・オフ型」のダイヤモンドMOSFETを開発したことを発表した。
同成果は早大の川原田洋 教授、同FU Yu氏、同 成田憲人氏、同 Xiahua Zhu氏、同 平岩篤Adjunct Professor、PDSの太田康介氏、PDSの藤嶌辰也 Co-Founder & CEOらによるもの。詳細は半導体デバイス/プロセス技術に関する国際学会「IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM 2023)」にて12月13日付で発表された。
MOSFETとは、MOS構造の電界効果トランジスタ(FET)であり、高速かつ低オン抵抗、高耐圧などを特徴とし、モーター駆動などのスイッチング素子として特に大電流を高速にスイッチするのに適しているとされている。
究極のパワー半導体材料とも言われるダイヤモンド半導体については、これまでも水素終端(C-H)構造を用いたダイヤモンドMOSFETの研究開発が世界中で行われてきたが、2DHG(2次元ホールガス)の存在によって、ゲート電圧が0Vのときであってもトランジスタがオン状態になる「ノーマリ・オン」動作となってしまい、0Vのときにオフになるノーマリ・オフ状態とすることができなかったという。
そのため、ノーマリ・オンのままパワーエレクトロニクスへと応用しようとすると、正常な動作がしなくなったときに安全な状態で停止させることができないこととなり、ノーマリ・オフ動作の実現が望まれていた。こうした背景から、PDSと早大の研究チームは、高温での酸化によりダイヤモンド表面を覆った水素原子のC-H結合がC-O結合に変化し、この表面が電子的な欠陥となり、性能を悪くしていることを踏まえ、その改善によるFETの安定動作の実現を目指してきたという。
ノーマリ・オフ型ダイヤモンドMOSFETの特徴
今回の研究では、ダイヤモンド表面を従来のC-O-Si結合ではなく、酸化シリコン(C-Si-O)結合とするデバイス構造を採用。これによりpチャネルMOSFETのホール(正孔)移動度が、SiCのnチャネルMOSFETの電子チャネル移動度よりも高い150cm2/V・sで、ノーマリ・オフ動作のための信号しきい値電圧が3~5Vと、従来型のダイヤモンド半導体では達成できていなかったことであり、意図しない通電(ショート)が防げる値だとしている。
また、横型の酸化シリコン終端構造ダイヤモンドMOSFETの最大ドレイン電流は300mA/mm以上、縦型の酸化シリコン終端構造ダイヤモンドMOSFETの最大ドレイン電流は200mA/mm以上を達成しており、いずれもPDSが調べた範囲ではノーマリ・オフ型ダイヤモンドMOSFETの最高値だとしている。
なお両者は、表面をC-Si-O結合で覆うことで従来のC-H表面に比べて、高温や酸化に強い安定なデバイスとなったとしているほか、製造工程でSiやSiCと同様の手法が使えるため量産性にも適したものとなったとの考えを示している。そのため、社会実装しやすいダイヤモンドパワー半導体が実現できたとの見方を示しており、PDSでは今後も、ダイヤモンド半導体の普及、実用化に向けたダイヤモンドMOSFETの研究開発を強化しくとしているほか、川原田教授は、さらに量産化に適したデバイスプロセスの開発や、高耐圧化をより簡単な構造にて実現することを目指していきたいとしている。