日本では岸田文雄政権の命運に注目が集まっているが、外務省の目下の関心事は2024年秋の米大統領選だ。共和党のトランプ前大統領の返り咲きが取りざたされているが、同省はこうした事態にも対応できるよう、「トランプシフト」ともいえる布石を打っている。
11月に同省の期待を一身に背負って渡米したのが、新しい山田重夫駐米大使だ。山田氏は米共和党に同省随一ともいわれる太いパイプを持つことで知られる。今夏の同省人事では外務次官の最有力候補に挙げられていたが、同省の人事を実質的に取り仕切る元外務次官、秋葉剛男国家安全保障局長が「岸田文雄首相に山田氏の駐米大使就任を進言した」(外務省幹部)という。
米大統領選は再選を狙うバイデン大統領とトランプ氏の一騎打ちになる公算が高まっている。バイデン政権は、ウクライナ戦争やイスラエルとイスラム原理主義勢力「ハマス」との紛争処理などで支持率を落としており、予断を許さない情勢だ。
外務省は、トランプ氏と盟友関係を築いていた安倍晋三元首相が亡くなったこともあり、危機感が強まっている。「万が一トランプ氏が返り咲く事態となれば、通商や防衛力整備などで法外な要求を抑えきれなくなる」(同省局長級)との声は多く、現段階から人脈の再構築に腐心する。
24年春には、岸田首相が国賓待遇で訪米する予定もあり、山田氏はその準備役も担う。岸田政権の弱体化を受け、米側がまともに外交の相手をしてくれない可能性も指摘されており、山田氏は気の抜けない日々を過ごすことになりそうだ。