管理の質の向上目指して
東京・渋谷の商業施設・渋谷ヒカリエ内にある『牛たん炭焼利久』。全国約100店舗を構える仙台発祥の牛タン専門店チェーンだ。
渋谷ヒカリエ店は約25名のスタッフが働く大型店舗。お店を悩ませていたのが、労働時間の調整にあたる店長のシフト管理業務。店長は毎月、スタッフから紙で提出された希望シフトを基にシフト表を作成していた。シフト作成にかかる時間は約5時間。実に約半日分の勤務時間を費やしており、店長は店の接客対応などから離れてシフト管理に取り組んでいたため、人手が足りない場面でもサポートが難しい局面が多々あった。
セブン-イレブン・ジャパン社長・永松文彦「地域や社会に無くてはならない店づくりを!」
そこで2023年4月から、リクルートのシフト管理サービス『Airシフト』を導入。それまで5時間かかっていた作業が6割減、わずか2時間で済むようになったという。利久は渋谷ヒカリエ店での導入から半年が経った現在、全国41店舗に導入を拡大している。
「今までは働いている方が職場に行ってシフトの希望を出したり、休日にチャットアプリやメールでシフト希望を打ち込んだりしなければならなかった。それが現場の方だけでなく、管理職の方の負担になっていた。しかし、デジタル活用で作業が効率化でき、シフトをくんだ時点で人件費がパッと計算されるので、コストに見合ったシフトを管理することができる」
こう語るのは、『Airシフト』のプロダクト責任者でリクルート プロダクト統括本部ユニット長の沓水佑樹氏。
『Airシフト』はシフト管理業務をデジタル化することで、最適な人材配置と業務効率化を目指すシフト管理サービス。いわば、シフト管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するツールだ。
スタッフはリクルートが手掛けるスマートフォンアプリ『シフトボード』から希望するシフトを送信。AirシフトのAI(人工知能)がシフトのパターンを学習し、自動でシフトをくんでくれるという仕組み。
すでにシフトボードのダウンロード数は1000万超。何曜日の何時から何時までなら働くことができるとか、扶養から外れないように年収103万円以内に収めたいなど、給与の目標金額の設定も自由にできる。
「人手不足が深刻化する中で、週1でいいとか、2時間だけでいいとか、より細かい募集をしないと人が採用できない時代になっている。われわれはシフト管理をデジタル化して、労働力を最大限シェアするような仕組みができればと。最終的にシフトというのは、働く人たちの気持ちを考えて決めるものなので、そうした人間的な判断以外の店長さんの作業をゼロにしたいと考えている」(沓水氏)
同社ではAirシフトの導入店舗数は公表していないが、コロナ禍で導入数が増え、前年比で3~4倍に増加。現在は飲食店やコンビニ、学習塾、病院、介護施設、工場などで導入。2024年4月からは、医師の働き方改革の新制度が施行されるため、今後は医療・介護分野での導入も進みそうだ。
シフトを細分化して組み合わせていくことで…
現在は、多くのインバウンド(訪日観光客)が訪れるなど、2023年5月にコロナ禍の外出制限がなくなって以降、飲食店や小売り、ホテル業界では客足がかなり戻ってきた。
一方、同社グループのシンクタンク・リクルートワークス研究所の調査によると、2030年には約341万人、2040年には約1100万人の労働供給不足が発生。2022年の日本の出生数は約77万人と、少子化はますます加速しており、今後は人手不足の問題が今まで以上に、社会に影響を及ぼしかねない状況になっている。
「フルタイムで働くのは難しいけど、ピンポイントだと働けるという人もいる。シフトを細分化して、うまく組み合わせていくことで、人手不足の影響は最小限に留められるのではないか」と語る沓水氏。
当然だが、人口減少・人手不足の解決は一朝一夕にできるものではない。その中で、テクノロジーの活用が企業の生産性向上と人手不足の解消に寄与することはできるのか。リクルートの挑戦はこれからも続く。