アクセルスペースは12月21日、重量145kg程度、大きさ125cm×100cm×75cmの小型衛星「PYXIS」(ピクシス)をプレスに公開した。これは、同社の新しい衛星開発サービス「AxelLiner」の実証衛星として開発したもの。Falcon 9ロケットのライドシェアミッション「Transporter-10」で2024年第1四半期(Q1)に打ち上げる予定で、まもなく米国に輸送するという。

  • 小型衛星「PYXIS」(ピクシス)のフライトモデル

    小型衛星「PYXIS」(ピクシス)のフライトモデル (C)アクセルスペース

PYXISは衛星開発の新たな羅針盤となるか?

一般企業が「宇宙を活用したい、そのための衛星が欲しい」と思っても、衛星本体を開発するだけではなく、各種許認可など様々なプロセスが必要で、ハードルは高い。AxelLinerは、そういった複雑な部分を全てパッケージ化し、ワンストップでサービスを提供するというもの。まさに「Space Project as a Service」である。

現在、世界では小型衛星の需要は急速に高まっている。技術の進歩により、従来は大型衛星でないとできなかったことも、一部が実現可能になっている。また、超小型衛星のユーザーが、性能を向上させるため、小型衛星に移行する例もある。

しかし、オーダーメイドの一品生産では、衛星の開発に時間がかかってしまう。同社の中村友哉CEOは「宇宙業界でも求められるスピードが上がっている」と指摘。AxelLinerは、汎用の衛星バスを活用することで、より短期間・低コストでの開発を実現する。これまでは2~3年必要だったところ、「最短1年」で実現できるという。

  • アクセルスペースの中村友哉CEO

    アクセルスペースの中村友哉CEO

衛星バスは、通信系や姿勢制御系など、どんな衛星でも必須になる機能をまとめた部分だ。ここを共通化すれば、顧客ごとに異なるミッション部だけを開発すれば良いので、カスタマイズ要素を最小化できる。同社にとっては、限られた人的リソースの中でも、より多くの案件を手がけられるというメリットもある。

  • 汎用バスを活用すれば、新規開発は最小限ですむ

    汎用バスを活用すれば、新規開発は最小限ですむ (C)アクセルスペース

PYXISでは、まずNタイプ(ノーマル)の衛星バスの実証を行う。AxelLiner自体は、「50kg~300kgクラスをカバーする」(中村CEO)とのことで、今後、Hタイプ(ハイパフォーマンス)も開発する予定だ。開発コストについては、「まだイメージレベルだが、5~10億円程度を想定している」(同)という。

顧客としては、まずは宇宙分野のスタートアップを想定。AxelLinerは「使いやすさ」も重視しており、その次の段階として、ターゲットを非宇宙企業まで広げていく予定だ。

  • PYXISとは羅針盤座のこと。ミッションパッチが公開された

    PYXISとは羅針盤座のこと。ミッションパッチが公開された (C)アクセルスペース

また、同社が期待しているのは、軌道上実証のニーズだ。衛星分野は信頼性を重視するため、宇宙空間で動作実績がある部品やコンポーネントが選ばれやすい。AxelLiner発表後、コンポーネントメーカーからの反響が大きかったとのことで、軌道上実証の専用衛星をシリーズ化し、定期的に打ち上げることも考えているそうだ。

なおAxelLinerでは、由紀ホールディングスが衛星の製造パートナーとして協力する。今回のPYXISの開発はアクセルスペース側の設備で行われたものの、由紀ホールディングス側のエンジニアも加わり、組み立てや試験の経験を積んだ。次回からは、パートナー側の設備で製造が行われることになる。

中村CEOは、「小型衛星は世界でもホットな領域。いかにたくさん作っていけるかが、世界的な鍵になっている」と指摘。「100kg級のデファクトスタンダードになれるよう、低コストで早く量産できる体制を整えたい。今後、年産で10~20機、最終的には100機でも対応できるようにしたい」と意欲を見せた。

PYXISでは様々な技術実証ミッションを計画

PYXISは、2023年からフライトモデルを開発。現在、環境試験も全て完了し、米国への出荷待ちの状態だ。今回、同社のクリーンルームにて、このPYXISが公開された。

  • PYXISの開発状況。年明け早々にも出荷される模様だ

    PYXISの開発状況。年明け早々にも出荷される模様だ (C)アクセルスペース

PYXISは、前述のように衛星バスの実証がメインミッション。衛星本体は、軌道上で地球側となる面が上に設置されていたが、この下側1/3がバス部で、上側2/3がミッション部になっているという。設計は、高度500~600kmの太陽同期軌道(SSO)を想定している。

  • 下側1/3の太陽電池セルの隙間あたりにバス部とミッション部の境界がある

    下側1/3の太陽電池セルの隙間あたりにバス部とミッション部の境界がある

ミッション部には、光学望遠鏡を搭載。これは、同社の地球観測衛星「GRUS」の次世代向けに、光学系を先行実証するもの。特徴は、従来に比べ感度が向上していることで、そのほか観測バンドも1つ増える予定だという。

  • 上面に見える穴が光学望遠鏡

    上面に見える穴が光学望遠鏡。軌道上ではこれが地球側を向く

同社の地球観測サービス「AxelGlobe」では、現在、5機のGRUSを運用中だ。同日、新たにシリーズDラウンドで約62.4億円の資金調達を完了したことが発表されており、この資金を活用し、今後、機数をさらに増強。世界中のどこでも1日1回撮影できる体制の構築を目指す(現在は2日に1回)。

同社はこれまで、GRUSが中分解能であることを強みとアピールしてきたが、中村CEOは今後について、「高分解能のデータ提供にも踏み込んでいきたい」と発言。ただ、これは中分解能から高分解能にシフトするということではなく、「異種のデータを組み合わせた新しいソリューション」を考えているとのこと。

中村CEOは、「高分解能の分野はレッドオーシャンだが、中分解能のデータも持っていることが差別化に繋がる」と指摘。「これらを組み合わせることで、アドバンテージが得られる」と期待した。

そのほかPYXISでは、ソニーグループが開発したLPWA通信システムや、大きな膜を展開する「D-SAIL」の実証も行われる。

  • この白くて四角いのがLPWAの通信アンテナ

    この白くて四角いのがLPWAの通信アンテナ

  • 「D-SAIL」はここ。両側面に搭載されている

    「D-SAIL」はここ。両側面に搭載されている

D-SAILは、衛星の運用を終了するとき、この膜によって空気抵抗を増やし、速やかに大気圏に再突入させるもの。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証3号機」にも搭載されていたが、イプシロン6号機の打ち上げが失敗したため、PYXISが初の軌道上実証となる見込みだ。

  • 両翼のD-SAILを展開し、再突入までの期間を短縮する

    両翼のD-SAILを展開し、再突入までの期間を短縮する (C)アクセルスペース