島津製作所は12月21日、脂質や天然化合物の詳細な構造解析を実現する四重極飛行時間型質量分析計「OAD-TOFシステム」を発売することを発表した。

OAD-TOFシステムが開発された背景

OAD-TOFシステムは、同社独自のイオン解離技術「OAD(Oxygen Attachment Dissociation: 酸素付着解離)」により、脂質をはじめとした有機化合物に含まれる炭素間の二重結合位置の解析を可能にした装置。この技術の開発に当たっては同社エグゼクティブ・リサーチフェローであり、質量分析技術の開発によりノーベル化学賞を受賞した、田中耕一氏が所長を務める田中耕一記念質量分析研究所が関わったという。

  • イオン解離技術を搭載する四重極飛行時間型質量分析計「OAD-TOFシステム」

    イオン解離技術を搭載する四重極飛行時間型質量分析計「OAD-TOFシステム」の外観 (出所:島津製作所)

化合物の評価や探索において、炭素同士が強く結び付く箇所(炭素間二重結合)は化合物の特性を決定する上で重要な因子となるとされている。例えば、脂質1つとっても動脈硬化リスクの低減が期待されるオメガ3のほか、オメガ6やオメガ9など多数存在しており、その機能は炭素間二重結合の有無やその位置などによって異なるのだという。そのため、研究開発には炭素間結合位置を含む構造解明が重要な位置付けとなってくるが、従来あるイオン解離手法では詳細に解明することが困難だったという。

OADによる構造解析の特徴

そうした課題を克服するべく同社が開発を進めてきたのがOAD-TOFシステムとなる。従来は、アルゴンや窒素など不活性化ガスとの衝突によりイオンを断片化する「衝突誘起解離法(CID)」にて、化学結合の弱い部分が優先的に解離されていたという。

  • これまで難しかったオメガ脂肪酸をOAD-TOFシステムでは迅速に識別できる

    これまで難しかったオメガ脂肪酸をOAD-TOFシステムでは迅速に識別が可能になる (出所:島津製作所)

一方、今回開発されたOAD技術は原子状の酸素(酸素ラジカル)をイオン化した試料と反応させることで、炭素間の二重結合を特異的に酸化/解離させ、そこで生まれたイオン片から炭素間二重結合位置の情報を得ていくという手法を採用であり、そこに原子・分子レベルに分けた試料の大きさや量を測定することで詳細な化合物情報を得ることが可能な「四重極飛行時間型質量分析計(Q-TOF型MS)」を組み合わせることで脂質や天然物などあらゆる化合物の構造解明を可能にしたという。

また、OAD-TOFシステムは、OAD技術を実現するオプションキット「OAD RADICAL SOURCE I」を搭載する形で実現され、電子やアニオンによるラジカル反応を利用したフラグメンテーションでは困難であった1価イオンや負イオンにも適用することができるという。また、CIDとOADをソフトウェアから簡単に切り替えることが可能なため、2つのイオン解離法を試料や目的によって使い分けることができるほか、OADとCIDの同時分析も可能だとしている。

目標は発売開始後1年で25台

同社では、OAD-TOFシステムについて、食品が身体に及ぼす効果の解明や、美容成分・医薬品の開発、病態のメカニズムなどさまざまなヘルスケア並びにライフサイエンス分野の研究開発に活用されることが期待されるとしており、発売開始1年で国内外合わせて25台のシステムの販売を目指すとしている。価格は、OAD RADICAL SOURCE Iがを1500万円(税別)、OAD-TOFシステムが7500万円~(税別、別途PCが必要)としている。