東京工業大学(東工大)は12月20日、初期の地球の状態と適合する条件下でマーチソン隕石から発見された、安定な炭素数6の炭水化物である「C6アルドン酸塩」が、非酵素的に生命の基本的な分子の構成要素となる「ペントース(五炭糖)」の供給源として機能した可能性を示唆する化学経路を解明したことを発表した。

同成果は、東工大 地球生命研究所(ELSI)のRuiqin Yi研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学に関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「JACS Au」に掲載された。

  • 今回の研究によって、マーチソン隕石から発見されたアルドン酸塩が、非酵素的合成経路を介してペントースの生成につながる可能性があることが明らかにされた

    今回の研究によって、マーチソン隕石から発見されたアルドン酸塩が、非酵素的合成経路を介してペントースの生成につながる可能性があることが明らかにされた(c) NASA’s Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab(出所:東工大 ELSI Webサイト)

現代の生物は、複雑な化学反応のネットワークを介して、栄養素をあらゆる種類の化合物に変換できるとされ、酵素を用いて特殊な変換を触媒し特定の分子を生成することもできるとされている。また、酵素は生命の誕生以前には存在していなかったと考えられており、そうした時代にはさまざまな非酵素的化学反応ネットワークが、環境中の栄養素を原始生命体の機能をサポートする化合物へと変換していた可能性があるという。

その例として挙げられるのが、RNAやそのほかの分子の基本的な構成要素であるベントースの合成。ただし同分子は不安定な化合物であるため、地球初期において利用できたのかは不明だとする。これまで、ペントースが生命の誕生前に生成された可能性が数多く研究されさまざまな方法が提案されてきたものの、ペントースの寿命が非常に短い場合、生命誕生以前の反応に関与するためには十分な量を蓄積することができないというのが現在の理論であるという。

この問題の解決策を探るため研究チームは今回、初期地球におけるペントースの起源と持続的な供給について、別の説明を見つけるための研究を開始。まず、安定な炭素数6の炭水化物である「C6アルドン酸塩」がさまざまなプレバイオティックな糖から蓄積し、その後ペントースに変換される酵素を使わない化学ネットワークを探索したという。

そして、C6アルドン酸を非選択的酸化によって「ウロン酸塩」へ変換し実験と理論解析を行い反応ネットワークの詳細を解明。その結果、酸化がどの部位で起こったとしても得られるウロン酸化合物は、「3-オキソウロン酸」が形成されるまでは、常に「カルボニル移動」による分子内変換を受ける可能性があることが判明したという。

  • ペントース合成のための2つの異なる経路

    ペントース合成のための2つの異なる経路。(a)今回提案された原始代謝ペントース経路。アルドン酸塩の蓄積に続いて、ウロン酸塩への非選択的酸化、カルボニル移動、β-脱炭酸が起こる。(b)比較のために示されたペントースリン酸経路の最初の数ステップ(c) Yi et al. 2023 JACS Au(出所:東工大 ELSI Webサイト)

さらに、今回実証されたペントースの非酵素的合成経路が、代謝に関する「ペントースリン酸経路」の最初のステップと似ていることが確認されたとした。これらの結果は、プレバイオティクな糖合成が、現存する生化学経路と重複している可能性があることを証明しているとし、糖が現代の代謝において遍在していることを考慮すると、今回提案された化学反応ネットワークは、最初の生命体の出現にとって重要であった可能性があるという。

研究チームは今後、C6アルドン酸塩が原始生命体の代謝における「栄養素」として機能するため、十分な量を初期地球に蓄積できたかのどうかに焦点を当てて研究を進めていく予定としている。