順天堂大学は12月19日、東京都文京区在住の高齢者1596名を対象とした観察研究により、青年期にバスケットボールやバレーボールをしていた人は、高齢期(65~84歳)の骨密度が高くなる可能性があることを明らかにしたと発表した。

  • 青年期に行っていた運動と高齢期の骨密度との関連(重回帰分析の結果)

    青年期に行っていた運動と高齢期の骨密度との関連(重回帰分析の結果)(出所:順天堂大Webサイト)

同成果は、順天堂大大学院 医学研究科 スポートロジーセンターの大塚光大学院生、同・田端宏樹博士研究員、同・田村好史センター長補佐/先任准教授、同・河盛隆造センター長/特任教授、同・綿田裕孝副センター長/教授らの研究チームによるもの。詳細は、細胞内から生物全体までの生理学や環境との相互作用などを扱う学術誌「Frontiers in Physiology」に掲載された。

骨量は20代にピークを迎え、その後50歳ごろまで維持され、その後は加齢に伴い減少していく。特に女性では閉経後に急激に減少し、70歳以上の日本人女性のおよそ4割が「骨粗鬆症」になるという報告もされているほどだ。骨粗鬆症を背景とする転倒・骨折は、女性の要介護になる原因の第2位となっており、健康寿命の延伸のためにも骨量の維持は必須である。なお骨密度は、一度低下すると上がりづらいため、10~20代の青年期に最大骨量を高めておくことが、高齢期の骨密度の維持、つまり骨粗鬆症の予防に重要だという。

中学・高校生期に運動を実施すると、最大骨量を高められることがよく知られている。特に、バスケットボールやバレーボールなど、骨に加わる刺激の大きい運動をしている人では、水泳やサイクリングなどの骨に加わる刺激の少ない運動をしている人に比べて骨密度が高くなるとされる。しかし、このような10代の運動実施種目の違いが、長期的に影響につながり高齢期の骨密度とも関連するのかについては、詳細にはわかっていなかったとする。

そこで研究チームは今回、日本の伝統的な“部活動”に着目し、順天堂大のスポートロジーセンターが2015年から取り組んでいる、東京都文京区在住の高齢者を対象とした観察型コホート研究「Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー、以下BHS)」において、中学・高校生期に行った運動部活動の種目と高齢期の骨密度との関連についての検討を行ったとのことだ。

今回の研究では、BHSの研究に参加した65~84歳の高齢者1596名(男性681名、女性915名)を対象とし、身体組成、血液検査に加え、2種類の微量なX線を利用して透過率の違いから体組成を測定する「二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)」を用いて、大腿骨頸部および腰椎の骨密度が評価された。また併せて質問紙を用い、中学・高校生期に運動部活動に参加していたかどうか、参加していた人はどのようなスポーツ(部活動)に取り組んでいたかについての調査が行われた。

そしてこれらの調査結果を用いて、大腿骨頸部および腰椎の骨密度を従属変数とし、各スポーツ(運動部活動)の実施有無および参加者の特徴(年齢、体重、血清25-ヒドロキシビタミンD値など)を独立変数として、中学・高校生期の運動種目と高齢期の骨密度との関連を「重回帰分析法」を用いた解析が行われた。なお重回帰分析法とは、2つ以上の独立変数が従属変数に与える影響度合いを分析する手法である。

その解析の結果、中学・高校生期にバスケットボールをしていた男女で、高齢期の大腿骨頸部骨密度が高く、中学・高校生期にバレーボールをしていた女性では、高齢期の腰椎骨密度が高いことが示されたとのことだ。

  • 生涯における骨量の変遷と運動と骨量の関連

    生涯における骨量の変遷と運動と骨量の関連(出所:順天堂大Webサイト)

研究チームによると、今回の研究の興味深い点は、競技レベルや運動量の多いアスリートなどではない一般人であっても、数十年前の中学・高校生期の運動経験によって得られた骨利益が、高齢期まで長期にわたって維持される可能性が示されている点だという。少子化が進む昨今、部活動の運動部員数は減少傾向にあり、スポーツをしたくても部活がない時代がくるのではないかと危惧されている。実際にスポーツ庁の調査では、2009年から2018年の間に中学生の運動部活動所属者が約13.1%減少したという報告もある。そうした中で今回の研究成果は、中学・高校生期にバスケットボールやバレーボールといった骨に大きな刺激が加わるスポーツを行うことで、長期的に骨の健康をもたらし、青年期の運動実施が将来の健康につながる可能性を示唆するものだとした。

なお今回の研究により、中学・高校生期の運動が高齢期の骨密度維持と関連することが示唆されたが、運動強度、運動量、運動時間の詳細など、まだ不明な点が多く残されており、研究チームは今後もさらなる研究を進めていくとしている。