日立製作所(日立)は、産業分野での活用を想定し、現場データの収集技術や生成AIを活用した「現場拡張メタバース」を発表した。同技術を日立GEニュークリア・エナジーおよび日立プラントコンストラクションの両社内で実施された原子力発電所のモックアップの移設工事に適用した結果、特殊なデジタル機器を使わず、遠隔の部署同士での認識齟齬による手戻り頻度を減少し、他の作業の完了待ちを低減するといった業務効率の向上に有効であることを確認したこともあわせて発表した。
「現場拡張メタバース」とは?
現場拡張メタバースという名称については、従来は物理的な実態の制約でその場にいる作業員にしか把握できなかった現場を仮想空間上に拡張し、遠隔地にいる関係者にも直感的な形で現場を見える化するという意味がこめられているという。
現場拡張メタバースは、作業着型センサやスマホアプリなどを用いてデータ取得位置を自動で特定し、位置情報をはじめとする5W1H情報を付与した形で、現場の人やモノに関する画像・映像・文書・音声・IoT データなど多様な種類のデータを容易に効率的に収集する技術を有する。
これにより蓄積される大量かつ多様なデータをAIで解析し、メタバース空間で5W1Hの情報やデータの種類に関するキーワードなどを用いて所望のデータに迅速にアクセスする技術や、生成AIを用いて多様なデータの中から必要な情報を対話形式で抽出する技術、さらにはデジタル機材や特殊機器、専用ソフトのインストールなどを必要とせず、ノートPCやスマホなどからWebブラウザを通して、デジタル技術に不慣れな顧客でも簡単にメタバース空間やそこに蓄積された所望のデータを閲覧できる技術を有する。
タイムリーな図面の発行・他作業の完了待ちの低減へ
同技術のプロトタイプシステムを、日立、日立GE ニュークリア・エナジー、日立プラントコンストラクションの3社合同で、7月から8月の約2か月間にわたり、原子力発電所のモックアップの移設工事で実際に使用した。従来、工事の現場でしか実施されていなかった日次の夕礼を本技術のプロトタイプシステムを用いて開催したところ、遠隔地にいる関係者同士がVRゴーグルや高性能PCなど特殊なデジタル機器を用いることなく、現場状況の情報共有やそれに基づく合意形成が可能になることを確認したという。
これにより、タイムリーな図面の発行や現場の実態に合わせた計画立案が可能となり、異なる部署間での認識齟齬に起因する工事の手戻りや他作業の完了待ちの低減など、業務効率向上に有効であることを確認したということだ。
今後、日立は、エネルギーや交通をはじめとするさまざまな分野の顧客と連携して、同技術の効果を検証し、現場作業の効率化を通じてグローバルな社会インフラの持続可能な運用と管理に貢献する構えだ。また、日立GEニュークリア・エナジーと日立プラントコンストラクションは、原子力発電所における各種作業に同技術を活用していくとしている。