PwCコンサルティングは12月14日、「2023年DX意識調査 - ITモダナイゼーション編 - 」をテーマに記者説明会を開催した。今回の調査は、2021年3月に発表した「ITモダナイゼーションの取組状況に関する意識調査」の第3弾。
日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)意識調査の一環として、回答者数は売上500億円以上のITモダナイゼーション(既存のプログラムを変換ツールで他言語に書き換えて、移行を実施する手法)に関与している企業/組織の課長レベル以上の500人を対象に2023年9月に実施したものとなっている。
今回の説明会では、調査データの分析結果からみえた日本企業の取り組みの現状と変化、日米によるクラウド活用の比較、デジタル人材の育成・活用で二極化が進み始めたDXの本格的な展開、アジャイル開発の進捗とクラウドネイティブ化の広がり、そして生成AI活用による実態などに焦点を当てた結果が報告された。
ITモダナイゼーション成熟度とは
最初に登壇したPwCコンサルティングの執行役員 パートナー クラウドトランスフォーメーションリーダーである中山裕之氏は、同調査における「ITモダナイゼーション成熟度」の定義を以下のように説明した。
「ITモダナイゼーション成熟度については、ITの俊敏性と弾力性が重要との仮説より、『アジャイル開発手法の状況』『パブリッククラウドの活用状況』『クラウドネイティブ技術の活用状況』に関する質問に着目し、その活用度合に応じて3つに分類しました」(中山氏)
それが、3つすべてにおいて全社的に活用中である「先進」、一部ではあるが本番で活用中の「準先進」、先進と準先進以外の「その他」という分類の仕方だ。
回答者のITモダナイゼーションの成熟度の内訳を見てみると、先進が8%、準先進が53%、その他が39%という結果となった。2021年と2022年の調査と比べると、準先進の分類が25%(2021年)から29%(2022年)、そして53%(2023年)へと大幅増となった一方で、先進に関しては3年間で1%の微増に留まっている。
ITモダナイゼーション成熟度を決める、アジャイル開発手法の状況・パブリッククラウドの活用状況・クラウドネイティブ技術の活用状況という3つの質問の回答内訳を見てみると、「全面展開または一部展開中」と回答した割合は、パブリッククラウドの活用状況に関しては82%から80%に落ちてしまっているものの、アジャイル開発手法の状況が45%から72%に、クラウドネイティブ技術の活用状況が53%から82%に上昇したという。
5つのITモダナイゼーション推進のヒント
続けて中山氏は、「先進が実感するITモダナイゼーション3つの効果」として、「デジタル人材の育成・採用に関して着実に成果を出している」「ビジネス環境の変化に応じて速やかにアプリケーションが更新可能な状態になっている」「パブリッククラウド活用の効果をすでに享受しており、その数値は米国の平均を上回る」という点をあげた。
特にデジタル人材の育成・採用に関しては、82%が「期待以上の効果が出ている」と回答しており、61%だった2022年と比較しても割合が大きく上昇する結果となっているという。
続いて登壇したPwCコンサルティングのディレクター クラウドトランスフォーメーションの鈴木直氏は、先進の取り組みから5つのITモダナイゼーション推進のヒントを紹介した。
先進とそれ以外で50ポイント以上の差が出た5項目は以下の通り。
「パブリッククラウドの活用方針・戦略の項目を見てみると、『全社レベルで策定している』と回答した先進は95%という結果となりました。パブリッククラウド活用方針が明確になっていることにより、期待効果も明確になり、ビジネス的な効果として実感することが可能です」(鈴木氏)
また、「システム開発における自動化」という側面で見ても、先進の92%が「ほぼすべてのシステムで導入済み」と回答しており、その他が5%のみに留まっていることを考えても大きな開きがあることが分かる結果となった。
なお、先進においてはシステム開発やアジャイル推進にあたり、ほぼすべての領域で「自社の社員が主に担当している」という。
課題は「慢性化するデジタル人材不足」
「ここまでITモダナイゼーションを加速させるヒントを先進の取り組みから探ってきましたが、その一方で、今後ITモダナイゼーションを実施していく上で解決すべき課題も浮き彫りになってきました。課題については、先進・準先進・その他で多少の差やばらつきが見られるものの、顕著な差は見られませんでした。先進であっても解決すべき課題はまだ残っているようです」(鈴木氏)
アジャイル開発推進における課題とクラウドネイティブ化における課題のそれぞれ上位5項目を見てみると、「慢性化するデジタル人材不足」の現状が浮き彫りになったという。 どちらの項目でも「知識、スキル、経験が不足しており、進め方が分からない」という回答が最も多く、これは先進・準先進・その他でほとんど変わらない。
この結果に対して鈴木氏は「自社で担当するのは効率的でない領域に関しては積極的に外部活用を視野に入れ、人員計画の最適化を行い、戦略領域における内製化範囲をより拡大していく必要がある」との見方を示した。
加えて、経営層・リーダー陣の新しい技術や進め方に対する理解不足が、新たな課題として認識されていることも大きな課題であることも分かったという。
この結果から、アジャイル開発やクラウドネイティブ技術の活用は、現場がボトムアップで取り組んできたように見受けられるが、「ボトムアップの改革では、いずれ取り組める範囲に限界が来るので、全社レベルで改革を実現するのであれば、トップの強いリーダーシップが不可欠」と鈴木氏は説明した。
ITモダナイゼーションを成功に導くロードマップ
最後に鈴木氏は、今回の調査結果の先進の取り組み状況を参考にしながら、前述した課題を併せて考察することで、日本企業が取り組むITモダナイゼーションを成功に導くロードマップが完成したことを紹介した。
このロードマップは4つのステップからできており、以下のような手順が求められるという。
ステップ1
- パブリッククラウドの活用を本格的に開始、新規システムはパブリッククラウド上で - 開発、既存システムも可能なものからクラウドへ移行
- パブリッククラウド活用開始後、全社レベルでの「クラウド活用方針」の策定
- テクノロジーに精通した経営層による変革の意思表示と社内啓蒙開始
ステップ2
- パブリッククラウド上で運用されているシステムのクラウドネイティブ化開始
- クラウドネイティブ技術を活用し、テストや運用の自動化の実装
- アジャイル開発を前提とした社内規程・ルールの整備
- アジャイル開発のパイロット実施
ステップ3
- クラウドネイティブ化の適用範囲拡大
- オンプレミスとパブリッククラウドのハイブリッド・マルチクラウド環境における運用の最適化
- 業務部門とIT部門が一体となったシステム開発の実施
- アジャイル開発による進め方の継続的改善と組織内での普及
- 戦略領域における内製化の着手
- デジタル時代に適した評価指標の設定
ステップ4
- ステップ1からステップ3までの適用範囲を広げ、基幹システムも対象範囲とする
- 継続的な振り返りを実施し、活動内容が陳腐化しないように改善を重ねる
鈴木氏は「ステップ2までは比較的順調に進展するものの、ステップ2から3へ進展する際に、大きな壁がある」と考えており、壁を超えるには社内におけるデジタル人材の育成が重要な要素の1つとなり、トップの覚悟と強力なリーダーシップが不可欠だという。
最後に鈴木氏は「多くの成功体験を重ね、その成功体験が次のチャレンジを促進する好循環がうまれると、ITのモダナイゼーションは加速する」と会見を締めくくった。