東芝は12月13日、高性能パワー半導体などのデバイスや先端材料の設計において、人手では探索が困難な多数のパラメータを自動で最適化するAI「高次元ベイズ最適化技術」を開発し、2023年度中に同技術を用いた自動設計を開始することを発表した。
詳細は、12月15~17日に米・フロリダ州で開催される国際会議「ICMLA2023」(22nd International Conference on Machine Learning and Applications)にて発表の予定だとしている。
複雑な構造を持つ現在の高性能デバイスや先端材料を設計する際には、実に多くのパラメータの値の調整を通して、各値の最適な組み合わせを見つけ出さなければ、性能向上を実現できない。
従来、高性能デバイスや先端材料の開発・設計は、特定のパラメータ値を設定・サンプルを試作・評価の工程を繰り返す試行錯誤に基づいて行われてきた。しかし最適な組み合わせのパラメータ値を見つけ出すには、パラメータベクトル(パラメータの数)が高次元化するほど、評価に必要な組み合わせの数が指数関数的に増加する。
1つのパラメータについて何通りもの値を用いて、そしてパラメータの数をいくつにするかで、調べるべき組み合わせは大きく異なってくる。たとえば1つのパラメータにつき10個の値を調べる場合、パラメータの数が2個なら、102で100通りの組み合わせとなる。これが、パラメータの数が10個となった場合は、1010で100億通りと、もはや天文学的な数値となり、仮に人手でそれら全部を調べようとした場合、相当な時間や予算などを要することになる。
このことから、従来の「グリッドリサーチ」などの人手による探索手法では、多数のパラメータの最適化を行うために必要なパラメータの調べるべき値が多く、パラメータベクトルが高次元化するほど困難となっており、人手で行うにはある程度パラメータを絞るしかなかったのである。
また、開発・設計対象の挙動を再現するシミュレータを導入することで、サンプル試作のコストを削減することは可能ではあるものの、調べるべき組み合わせの数が減るわけではないため、シミュレータの導入だけでは、対象の性能を最大限に引き出せるパラメータの組み合わせを見つけられないことも課題となっていた。
そうした中で近年は、AIやマテリアルズ・インフォマティクスを活用したデジタルエボリューション(DE)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進による高度なデバイス機能の実現や開発の効率化が進められている。パラメータの値を効率よく設定するために、ベイズ最適化技術というAI技術が用いられ始めているが、標準的なもの(以下「標準BO」)ではパラメータ数が多いと良い結果が得られないという課題があった。
そこで同社は今回、標準BOでは対応が難しかったパラメータ数の多さに対応した、高性能デバイスや先端材料の開発における自動設計向けのAIを用いた技術を開発したという。
そして、6個の設計パラメータからなるパワー半導体素子の自動設計に対し、今回開発された高次元ベイズ最適化技術(以下「今回のAI技術」)を適用したところ、動作時の電力損失の要因となるオン抵抗値を、標準BOに基づく従来の探索手法に比べて3分の2に低減する設計パラメータ値を見つけることに成功したとする。
研究チームによると、標準BOはパラメータの定義域全体からパラメータ値を探索するのに対し、今回のAI技術は探索範囲を低次元空間に限定し、それを順次切り替える仕様とのこと。また、標準BOは目的関数の値を予測する機械学習モデルの訓練データを全データとするのに対し、今回のAI技術は低次元探索空間の近傍のデータに限定する。これらの技術により、パラメータが多数ある場合でも効率的な最適化を実現できたとしている。
今回のAI技術は、調整可能なパラメータ数の限界を打ち破り、高度なデータ分析に基づく自動設計を実現したことで、設計対象の性能を最大限に引き出せるという。冒頭で述べたように、設計者の人手による作業では膨大な組み合わせの値を試すことは困難なため、性能向上を図りたい設計対象の特性値に基づく目的関数と、パラメータの探索範囲の設定のみとせざるを得なかった。それに対して今回のAI技術であれば、設計の効率化を大幅に高め、設計者がより多くの品種を同時に並列で設計することもできるようになるとする。
東芝では、2023年度中にグループの半導体・HDD事業を担う東芝デバイス&ストレージのパワーデバイス設計部門において今回のAI技術を適用した自動設計を開始するとのこと。今回のAI技術は、パワーデバイスの設計のみならず、さまざまな高性能デバイスや先端材料の自動設計への適用が可能だといい、同社では、今回のAI技術を用いたデータドリブン設計でDE・DXを加速することにより、さまざまな分野における高性能な製品の実現と生産性の向上に貢献していくとしている。