信州大学(信大)と国立環境研究所(環境研)の両者は12月13日、「子どもの健康と環境に関する全国調査」(以下、「エコチル調査」)の約1万8000組の母子のデータを対象として、母親の妊娠中における血中の「有機フッ素化合物」(PFAS)の濃度と、生まれた子どもの4歳時における「ぜん鳴」およびぜん息症状の有無との関連について解析した結果、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無との間に明確な関連は見られなかったことを共同で発表した。

同成果は、信州大 エコチル調査甲信ユニットセンターの野見山哲生教授、同・長谷川航平助教、同・安宅拓磨大学院生、環境研 エコチル調査コアセンターの山崎新センター長、同・中山祥嗣次長らの共同研究チームによるもの。詳細は、環境問題に関連する全般を扱う学術誌「Environmental Research」に掲載された。

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を解明するために、2010年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が実施している、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査だ。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯などの生体試料を採取して保存・分析すると同時に、長期間の追跡調査も行い、子どもの健康と化学物質などの環境要因との関係についての調査を行っている。なお同調査の実働は環境研が中心機関となり、国立成育医療研究センターがメディカルサポートセンターを、そして日本各地で公募で選定された15の大学などが、各地域の調査拠点のユニットセンターとして活動中だ。

ぜん息は、せきやぜん鳴(気管や気管支が狭くなるなど、呼吸の際に「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」という音がする状態)を生じる、小児において珍しくない疾患の1つだ。このぜん息のリスク因子の1つになるとして考えられているのが、妊娠中の母親や、出産後の子ども自身が化学物質にばく露されることである。

身の回りで使用されている化学物質のうち、PFASは炭素とフッ素の結合を含む有機化合物のことで、細かくは幾種類あるものの、それらはまとめてPFASとして扱われている。PFASはすでに免疫系への影響を生じることが知られていたが、そのばく露と小児のぜん息症状の有無との関連はこれまで明確にはわかっておらず、ヒトを対象とした研究でも結果が一致していなかったという。そこで研究チームは今回、母親の妊娠前期の血中PFAS濃度と、生まれた子どもの4歳時におけるぜん鳴およびぜん息症状の有無との関連を、疫学的な手法を用いて調べたとする。

今回の研究では、エコチル調査に参加している約10万組の母子のうち、母親の妊娠中の血中PFAS濃度が測定されている約2万5000組のデータが用いられることとなった。そして最終的に、その中から今回の解析に必要なデータがそろった1万7856組のデータが利用された。

子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無については、4歳時点での質問票の回答を用い、PFASについては、今回は6種類(PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFHxS、PFOS)を分析対象としたとのこと。子どものぜん息症状の有無の関連因子として考えられている母親の年齢、BMI、母親のぜん息、教育歴、喫煙歴、世帯収入、出産回数の影響も考慮した上で、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無との関連について、複数の要因の影響を同時に考慮した上で関連を検討するための解析手法である「ロジスティック回帰分析」を用いて検討が行われた。

その結果、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無との間に、明確な関連は確認できなかったといい、ばく露濃度と反応の関係を示す「ばく露反応曲線」は直線で、ほぼ平坦な直線が見られたとする。また、子どもの性別および母親のぜん息の有無による明確な関連の違いも見られなかった一方で、地域による関連の不均一性が見られたとのことだ。

今回の研究では、母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どものぜん鳴およびぜん息症状の有無との間に明確な関連は見られなかった。しかしこれで影響はあまりないといえるかというと、まだそうとは断定できないとのことで、研究チームは長期的な影響について今後の研究が必要としている。