東京ビッグサイトにて12月13日~15日にかけて開催されているエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2023」の「第4回 量子コンピューティングパビリオン」にて、blueqatは実寸大の半導体量子コンピュータのモックアップを展示しているほか、システム開発のスケジュールなどの説明を行っている。
半導体量子コンピュータの実寸大モックをblueqatが披露
blueqatは、量子コンピュータ向けアプリケーションやハードウェアなどの開発を手掛ける企業で、現在、SEMIジャパンの量子コンピュータ協議会にて、同社でCEO/CTOを務める湊雄一郎氏が委員長を務めている(委員長は2名おり、もう1人はJSR マテリアルズ・インフォマティクス推進室長の永井智樹氏)。現在、同社は産業技術総合研究所(産総研)が開発したシリコンスピン量子ビット素子を活用した4Kで動作可能なシリコン量子コンピュータチップを搭載する冷凍機と測定技術をメインに開発を進めている。今回、同社ブースで展示されているモックは、このシリコン量子コンピュータチップを搭載することを念頭においた冷凍機となる。
産総研も同パビリオンに出展しており、シリコンスピン量子ビット素子を適用したウェハや4Kで動作可能な量子ビット制御用集積回路試作チップなどを展示しているが、こちらの技術的な部分は昨年のSEMICON Japan 2022で披露したものから変更はないとのことであった。
blueqatが開発を進める冷凍機は、1Kまでシリコン量子コンピュータチップを冷やして駆動させようというもの。量子ビットの動作温度(1K)に到達するために3段階の輻射シールドで構成されており、冷却開始から実測20時間程度で1K以下に到達できるという。
また、冷凍機本体は超電導マグネットを活用し、1Kステージ上のサンプルに最大5Tの磁場を加えることが可能。この冷凍機の概要を説明した同社ブースのパネルでは冷凍機のサイズは幅1.1m、奥行き1.1m、高さ2.4mとしていたが、冷却機構をはじめとして最適化を図ることで小型化できる見込みが出てきたとのことで、展示されているモックはその見込みを踏まえた最新版のサイズとなり、高さも2mを切る程度、幅、奥行きも1mを切る程度まで小型化されたものとなっている。
将来的には卓上サイズまで小型化したいと同社では今後も開発を継続していく意向を示しているが、その前に実際にシリコン量子コンピュータの実用性を探ることを目的に、2024年春ころをめどに産総研に5~10台程度の冷凍機を設置し、測定環境の立ち上げを行うことを計画しているという。
シリコン量子コンピュータの実用に向けた基礎研究を推進する産総研
同じく量子コンピューティングパビリオンにブースを出展している産総研は、実際の半導体量子コンピュータチップの紹介というよりも、最新の研究成果の紹介をメインに据えた展示が行われている。例えば、6月に開催された「VLSIシンポジウム」では、集積回路を構成するトランジスタを極低温下で動作させた際のノイズ発生起源がシリコン-酸化膜界面の原子の抜けによる原子位置の乱れによって電流が変動し、ノイズの発生につながることが報告されたことを説明するパネルなどが展示されていた。
また、産総研ではSEMICON Japan 2023の一部会期と被る形で米国にて開催されている半導体の国際会議「IEEE International Electron Devices Meeting 2023(IEDM 2023)」にて、0.015Kの超極低温でのトランジスタの電気特性を測定することで、半導体界面の欠陥が電子を捕獲する現象がオフ状態からオン状態へのスイッチング特性を決定することを明らかにしたことも報告している。
シリコン量子コンピュータの実用化に向けては、その設計・製造に必要なさまざまな要素を導き出していく必要があり、産総研ではそうした一企業レベルでは難しい基礎研究を推進していくことで大規模集積量子コンピュータの実現を目指していくとしていた。