千葉大学は12月12日、胃がんを再発した患者の背景胃粘膜の内視鏡所見と遺伝子発現の統合的な解析を行い、背景粘膜の免疫系のタンパク質「インターフェロン(IFN)-α」などの炎症に関わるパスウェイ(生物学的過程や経路のこと)の亢進が、早期に胃がんを治療した後に別の箇所に胃がんが再発する「異所性異時性再発」に関与していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、千葉大大学院 医学研究院の長島有輝特任助教、同・中川良特任准教授、同・加藤直也教授、千葉大 医学部附属病院の沖元謙一郎助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
胃がんは近年は内視鏡技術が普及し、早期の状態で発見できれば、治癒が得られる確率も高くなっている。しかし、発見が遅れてステージが進んでしまうことも多く、現在でも世界では毎年100万人以上が亡くなっているという。胃がんの主な原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染によって引き起こされる慢性の胃粘膜障害が知られており、ピロリ菌を除菌することで新しい胃がんの発生リスクを低減させることが可能だとされている。
ところが、早期胃がんに対して内視鏡治療で治癒が得られ、ピロリ菌の除菌に成功した場合でも、5~15%ほどの患者は胃がんの再発を来すことも知られている。この再発のリスクは、背景胃粘膜の内視鏡所見や病理所見などから、ある程度は予想可能だが、メカニズムの詳細はいまだ不明だったという。そこで研究チームは今回、このメカニズムの解明を目的に、早期胃がん内視鏡治療後にピロリ菌除菌を行った患者の背景胃粘膜を採取し、そのRNAを用いて網羅的に遺伝子発現解析を行うことにしたという。
今回の研究では、千葉大医学部附属病院において、早期胃がん内視鏡治療後かつピロリ菌除菌成功後でフォローを受けている患者のうち、胃がんを再発した患者5名(再発群)と、再発していない患者5名(コントロール群)が対象とされた。内視鏡検査時に得られた所見と採取された背景胃粘膜の遺伝子発現が、それぞれ統計的に解析され、比較が行われた。
その結果、内視鏡所見の比較では、背景胃粘膜において再発群では、胃の外側の大きな湾曲部にある襞である「大弯襞(だいわんひだ)」の腫大(しゅだい)が多く見られることが示されたという。通常、大弯襞の腫大はピロリ菌により誘導され、その除菌によって改善する。しかし、再発群ではその腫大が継続していることが判明したのだという。
また、遺伝子発現解析により、両群のmRNAやmiRNAの発現パターンに違いがあることが判明。このパターンの違いの詳細を知るため、パスウェイ解析が行われたところ、再発群の胃粘膜では免疫や炎症に関わる複数のパスウェイが亢進していることが確認されたという。今回は、この中でも代表的な経路としてIFN-αシグナル伝達経路についての解析が行われ、同経路を制御している複数のmiRNAの存在が示唆されたとした。
今回の研究により、再発群はピロリ菌除菌後であっても、内視鏡所見的にも遺伝子発現的にも背景粘膜に炎症像が見られることが示されたほか、その炎症の制御機構を、IFN-αシグナル伝達経路が担っている可能性が示されたことを踏まえ、研究チームでは胃がんの異所性異時性再発の新たな機構が示されたとしている。また、今回の成果により、早期胃がん内視鏡治療後かつピロリ菌除菌後の患者における、より適正なフォロー方法や、再発予防の創薬につながることが期待されるともコメントしている。