脳卒中や認知症の因子となる脳の小さな血管傷害(脳小血管病)は、動脈硬化が血圧より大きく寄与していることが、琉球大学などのグループの研究で分かった。これまで脳小血管病の予防には血圧を下げることが推奨されていたが、動脈硬化を防ぐほうが重要であることを示唆している。ただし、血圧をコントロールする薬は存在するが、動脈硬化の進行を遅らせる薬はないため、研究グループは「血管を硬くしないような生活習慣を身につけてほしい」と呼びかけている。
琉球大学大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学講座の石田明夫准教授(血管病学)らのグループは、2013~20年に沖縄県健康づくり財団で脳ドックを申し込んだ男女1894人を対象に、脳のMRI画像診断と血圧測定、動脈硬化度を調べた。1894人の内訳は、24歳から89歳の男性1118人、女性776人で、脳疾患の自覚症状や脳卒中の既往はない。
動脈硬化には2種類あるとされ、血管内部が狭くなるタイプと、動脈そのもののしなやかさが失われるタイプがある。前者はメタボリックシンドロームや糖尿病によって引き起こされ、コレステロール値が大きく関係している。一方、後者はコレステロール値に関係なく、若い世代でも起こる。今回調査したのは後者のタイプで、硬化の初期は血管を再び柔軟にできるが、ある一定の硬さに達すると、元に戻らない。動脈硬化度は、脈が上腕から足首に伝わる速度(baPWV)を測った。血管が硬ければ硬いほど数値は高くなる。
石田准教授らは、いわゆる下の血圧(拡張期血圧)は60歳くらいを境に下がっていくため、血圧ではなく動脈硬化が脳小血管病に何らかの影響があるのではないかと考えた。血圧は上120・下80ミリHg、baPWVは毎秒14.63メートルという基準値を境に、血圧が高く動脈硬化が進んでいる・血圧が高く動脈硬化は進んでいない・血圧が低く動脈硬化が進んでいる・血圧が低く動脈硬化は進んでいない、という4つの群において脳小血管病が見つかるかどうかを調べた。
その結果、血圧の高低に関係なく、動脈硬化が進んでいる人は進んでいない人の2倍超の高い割合で脳小血管病を発症していることが分かった。具体的には、動脈硬化が進んでいない群の発症率は22~24%なのに対し、進んでいる群では55~56%だった。
石田准教授は「これまでは血圧を下げて脳小血管病を防ぐことが基本とされていたが、動脈硬化度を診察のたびに測定するとリスク評価できることが分かった。血管年齢を上げないことが脳小血管病予防につながる」とした。動脈が硬くならないようにするには、食生活の見直しや、禁煙、運動習慣を身につけるなど健康に良い生活を送ることが大切という。
研究の成果は米心臓協会の「ストローク」に10月17日に掲載され、琉球大学が同日に発表した。
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