米Marvellの日本法人であるマーベルジャパンは12月12日、都内で記者説明会を開催。Marvell全体の戦略および日本での事業戦略などについて説明を行った(Photo01)。

  • 本社のWill Chu氏

    Photo01:左が本社のWill Chu氏(SVP&GM, Compute and custom business unit)、左がMike Buttrick氏(マーベルジャパンカントリーマネージャ兼セールス副社長)

Marvellとはどのような半導体メーカーか?

そもそも同社は秘密主義を貫いており、それもあって会社の概要が知られていないこともあり、まずはChu氏より本社の状況や戦略についての説明が行われた。

同社は1995年設立のFabless企業で、2023年度の売り上げはおおよそ59.2億ドル。会社規模としては決して大きな方ではない。特に製品が競合することが多いBroadcomがむやみやたらとM&Aで規模を拡大して、ガートナーの半導体製品売上ランキング6位前後、売り上げとしては200億ドル規模なのを考えると、相対的には小さな会社という事にはなるのだが、その分特定分野に特化した形でビジネスを行っている。

  • 現CEOのMatt Murphy氏

    Photo02:現CEOのMatt Murphy氏は2016年以来同社を率いており、この人事で秘密主義が変わるかと(当時は)期待したのだが、あんまり変わっていない

さて同社がフォーカスするのはこの4分野である(Photo03)。

  • コアになるのはEthernetにかかわる技術である

    Photo03:コアになるのはEthernetにかかわる技術である。そういえば、そもそも同社の製品が広範に使われるようになったのは、GbEのPHYからだった気がする

具体的に同社が提供する製品群はこちら(Photo04)。

  • 今回はProcessor(特にDPU)の話は出なかった

    Photo04:今回はProcessor(特にDPU)の話は出なかったし、またStorage周りのコントローラの話もなかったが、これも日本以外では結構大きなビジネスになっている

ここに向けて同社は先端プロセスの設計技術や各種のアクセラレータ、様々なIPとこれを支えるPackaging Technologyを保有していることが強み、としている(Photo05)。

  • 実はASICのデザインサービスも同社の業務の1つ

    Photo05:Photo03には出ていないが、実はASICのデザインサービスも同社の業務の1つであり、2019年にはGlobalFoundries子会社でデザインサービスを担っていたAvera Semiconductorを買収したりもしている。デザインサービスのビジネスにも、これらの技術やIPは大変に役立つわけだ

では具体的に現在の市場をどう見ているのか、というのがこちら(Photo06,07)。

  • 特に生成AI向けにGPU性能が毎年2倍の勢いで伸びていっている

    Photo06:特に生成AI向けにGPU性能が毎年2倍の勢いで伸びていっている、というのはGPUが刷新されるのではなく、増設されているという意味でもある

  • 生成AIのパラメータが増える

    Photo07:そして生成AIのパラメータが増えるというのは、それだけ大量のデータを読み込むという話であり、これはデータセンターが必要とする帯域がそれだけ増え、管理者の頭痛の種も増える(Chu氏はインフラを更新するチャンス、という表現だったが)という意味でもある

そして、こうしたデータセンターが増えるor機器が増設されるたびに、同社の製品が売れる(Photo08)という訳で、同社としては昨今の生成AIの急速な興隆はビジネスを大きく広げるチャンスと見ているわけだ。

  • 今後は増設メモリとしてCXL Memory Expanderなども必要になる

    Photo08:より高速な接続が必要になると、高速なPAM-4 PHYやCoherent PHYが必要になり、大量のStorageとSwitch、今後は増設メモリとしてCXL Memory Expanderなども必要になる。そういえばGen 4 EPYCのDeep Diveの際にはMarvellのCXL Memory Expanderを利用した例も紹介された

日本では車載ビジネスを重視

次いで日本のビジネスの話になるが、こちらは重点領域が自動車向けとなる(Photo09)。

  • そういえばFlexRayを最近採用している話を全然聞かない

    Photo09:そういえばFlexRayを最近採用している話を全然聞かない

トレンドは色々あるが、こうしたトレンドを実装するには広帯域なInterconnectが必要であり、車載向けEthernetがその最右翼、という事実には揺るぎがないからだ。その自動車向けのシステムがDomainからZoneに変わりつつあるという話は何度かレポートした(Photo10)が、同社の欧州における推定では2029年モデルでは9割以上がZone Architectureの採用になるとしている(Photo11)。

  • DomainにはDomainの良いところもあるのだろうが……

    Photo10:まぁDomainにはDomainの良いところもあるのだろうが……

  • 日本は欧州に比べると「2モデル程遅れてる」のが実感だとか

    Photo11:ちなみに日本は欧州に比べると「2モデル程遅れてる」のが実感だとか

Zoneでは必然的にEthernetを使う比率が増え(Photo12)、しかもより広帯域なものが必要になってくるという事で、これに向けた製品展開がメインであり(Photo13)、すでに日本のOEM5社に採用されているという話であった。

  • 急速にECUのEthernet化が進むとみている

    Photo12:出荷台数の伸びは2030年までに3%と予測されるのに、Ethernetのポートは24%増える、というあたりで急速にECUのEthernet化が進むとみているようだ

  • IEEE 802.3chでは2.5/5/10GBASE-T1の仕様を定めている

    Photo13:ちなみにIEEE 802.3chでは2.5/5/10GBASE-T1の仕様を定めており、同社が2021年に発表した88Q4364はこれに対応しているが、2.5Gなのか5/10Gなのか、は使う場所によって異なるとのこと。Zoneのバックボーンは10G、エッジは2.5Gとかの使い分けもありそうな模様だ

現状日本で一番注力しているのが、この自動車向けの高速Ethernetという訳だ。ちなみに10BASE-T1Sに関しては、対応するPHYを内蔵するSwitchは存在するがあまり注力するつもりはないとの事。メインは1Gbps以上を狙うとの事だ。

ちなみに日本の企業に売れているという訳ではないが(何しろベンダーがNECと富士通くらいしか残っていない)、5Gの基地局には同社のDPU(Data Processing Unit)が広く使われており(Photo14)、その意味では日本のマーケットは同社のDPUにとって無縁ではない。また高速Switchのマーケットでも同社の製品は広く使われており、やはり間接的にではあるが日本のマーケットで使われているとしている(Photo15)。

  • 海外メーカーが製造した基地局が日本で使われる

    Photo14:そして海外メーカーが製造した基地局が日本で使われるわけで、その中には同社のDPUが入っているという訳だ

  • 51.2Tbpsというのは、いろんな意味で曲がり角に来ているというのが同社の主張

    Photo15:ちなみにこの51.2Tbpsというのは、いろんな意味で曲がり角に来ているというのが同社のSandeep Bharathi氏(Chief Development Officer)の主張であり、この先どうするのか、という議論はあるのだがこれはまた別の機会に

久しぶりに開催された日本での事業説明会

ところで素朴な疑問は「なんでこの時期に、唐突に事業戦略の説明を?」である。実は筆者が記憶している限り、前回日本で開催されたのは2009年の事。当時はIntelから買収したXScaleビジネスについての説明会であったが、もう当然そんなビジネスは過去のものである。これについて「我々も日本でビジネスしてゆく上で、もっと自動車メーカーなどに知名度を上げてゆく必要がある。Marvellと聞いて『ああコミックの?』と言われる状態は問題がある」(Buttrick氏)という事らしい。これがきっかけになって、今後はもう少し広報活動を強化して頂けると助かるのだが……