MS&ADインターリスク総研は12月6日、同社が実施した「人的資本調査2022」の回答データに関する統計的な解析結果を発表した。これによると、人的資本経営や開示の取り組みが進んでいる企業では、従業員1人当たりの営業利益額が高いことが分かった。
MS&ADインターリスク総研の調査概要
同調査は同社が2022年9月8日~12月2日に、HRテクノロジーコンソーシアムおよびHR総研(Pro Future)と共同で、上場企業を中心に人的資本に関する調査票を配布して実施したものであり、有効回答社数は280社(上場232社、非上場48社)。うち、分析対象とした項目に欠損がなかった184社を分析に使用した。
人的資本調査の項目は、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」や内閣官房の「人的資本可視化指針」で推奨している人的資本の取組内容を参考に、大項目・中項目・小項目を作成し、企業の人的資本に関する取組水準を項目ごとに4段階でスコア化できるよう設計した。
スコアにより回答企業を高群・中群・低群に分類し、企業業績の指標である「従業員1人当たりの営業利益額」(調査回答時点の直前決算期)との関係性を分析した。
その結果、最も取組水準の高い「高群」は他の2群と比べて1人当たり営業利益が3倍程度高く、統計的にも有意な差を示した一方で、従業員規模や業種による分類では1人当たり営業利益に有意な差は見られなかったとのこと。
今回の分析では人的資本の取組水準の最も高い群のみが、他の2群に比べて高い営業利益を上げている。これは、人的資本の取組をある程度実践すれば結果が出るものではなく、一定以上の高い水準に至らなければ企業業績に影響を及ぼさない可能性が示唆されるとしている。
人的資本の取組が進んでいる会社の企業業績が優れている
今回の分析では、人的資本の取組が進んでいる会社の企業業績が優れているという結果が得られたという。
これは、「人材版伊藤レポート」や「人的資本可視化指針」で「人的資本投資が企業価値向上につながる」としている主張とも整合しているといい、我が国で進んでいる「人への投資」の効用を間接的に示す研究成果と同社は考える。
人的資本への取組(=人への投資)が企業業績につながるとのエビデンスが蓄積されれば、企業の経営者も、より人的資本投資に前向きな姿勢を示すと考えられる他、投資家も投資判断の材料としての優先順位を上げることが想像できるという。
一方、今回示した分析結果はあくまで相関関係であり、因果関係を示すものではないことから、今後の「人的資本調査2023」による経年データの分析などを通して、より精緻に企業価値向上につながる人的資本の取組について研究を進めたいと同社は考えている。