金沢21世紀美術館は2004年にオープンし、その時々のトレンドや現代の新しい価値観を表現した数多くの展示が並ぶ現代美術館だ。館内外にさまざまな現代アートがちりばめられ、来場者の感性を刺激する展示物で1日中過ごせる施設となっている。JR金沢駅からも公共交通機関を使って30分ほどでアクセスできる、金沢を代表する観光スポットの一つだ。
特に、レアンドロ・エルリッヒ作の『スイミング・プール』は人気展示で、全国各地からの観光客でにぎわっている。スイミング・プールを目当てに来場する人々が多いことは喜ばしい反面、同美術館では来場者に膨大な待ち時間が発生してしまうという課題を抱えていた。
そんな中、同美術館では2021年にリクルートが提供する受付・順番待ち管理システム「Airウェイト」を導入し、待ち時間への悩みを解決したという。同美術館でシステム導入を推進した 総務課 主査の柏真由実氏へのインタビューから、人気観光スポットのデジタル化事例についてお伝えする。
長蛇の列は鑑賞体験の妨げに「どこが21世紀」との声も
2004年の開館時から展示されているスイミング・プールは、美術館の中庭部分に展示された1つのプール。水で深く満たされているような外観であるが、水面の下はガラス張りとなっていて、その下に入れる作品だ。プールの中から水面を見上げる感覚と、中にいる人々を上から見る両面から、人と人との出会いを楽しむことをコンセプトとしている。
2019年時点では、入り口で展覧会ゾーンへの入場チケットを購入し、展覧会に入った後、スイミング・プールへの入場待ちの列に並ぶ形式を採っていた。その列は数十メートルにわたってしまい、美術館の廊下いっぱいに並ぶ大行列。他の展示の前まで到達するほどの長蛇の列で、実際に地下部に入るまでの待ち時間は3時間を超えることもあったそうだ。
待ち時間のストレスから、時折来場者から「どこが21世紀なんだ」との手厳しい声を聞くこともあれば、待機列の長さを見てスイミング・プールの鑑賞を諦めてしまう人も少なくなかったそうだ。他の作品監視を持ち場にする監視スタッフも、気づけばスイミング・プールの対応に追われてしまい、持ち場を守れないケースが多発していたという。
2020年に入ると、コロナ禍の影響で入場制限や展示内での消毒対応をせざるを得ない状況になった。当初は紙の整理券などで対処していたが、今度は整理券待ちの待機列が出来てしまった。ただでさえ待機時間の長さなどの問題があった上に、さらに3密の回避という課題が重なってしまったのである。
「細かなところにクレームの“種”が落ちてしまって、監視の責任者へクレームが多く届いていました。当時の展示の中には、触れると壊れてしまうようなセンシティブな素材の作品もありました。より注意深く見なくてはいけない状況だったにもかかわらず、プール目当てのお客さまの対応に追われることも多かったんです」(柏氏)
現場の学芸員からの相談をきっかけに、柏氏は社内提案をしたという。当初は普段の業務で忙しい中で新たなプロジェクトに手を着けることができなかったが、2021年に長谷川祐子館長が着任すると状況が一変。トップ交代によるさまざまな変化の中で、美術館全体が本格的なデジタル化の背中を押されることになったのである。
柏氏がプール列の問題解消に向けてアイデアを考えていることが現場の学芸員から上層部に伝わり、「改善に向けて動いて欲しい」と声がかかった。