アイコムは12月6日、携帯キャリアが提供する第5世代通信規格(5G)に対応した工場などの現場に向けたゲートウェイ「IP50G」の発売を開始したことを発表した。
5Gを工場で活用する時代が到来
工場を中心に、人手不足の解消や製品品質の向上に向けたニーズなどに対応するために生産設備などのネットワーク化が求められており、製造装置や付帯設備などにさまざまなセンサが搭載されるようになってきた。古くは、そうした機器は通信の安定性が求められることから有線ネットワークが活用されてきたが、ユーザーニーズに細分化などによる少量多品種への対応が求められるようになっており、そうした課題に対応するための生産現場のフリーロケーション化などが必要とされるようになってきており、自由度の高い無線ネットワークでの各機器の接続が求められるようになってきている。
そうした時代のニーズに対応することを目的に高速・大容量・低遅延・大量接続などの特徴を有する5Gを活用した機器同士の接続に向けた取り組みが各所で進められており、今回、同社が発売したゲートウェイはそうした機器のハブとなるべく開発されたデバイスで、中小の工場や企業などでも活用できる製品ならびにソリューションと位置づけている。
自社工場で3つの実証実験を開始
すでに同社の和歌山工場(和歌山アイコム)にて、KDDIと共同でKDDIが提供する5Gを活用する形での3つの実証実験を2023年2月より順次進めており、その性能評価が進められているという。
1つ目のユースケースは「ピッキング台車のサーバー接続ネットワークに5Gを活用」するというもので、資材倉庫でピッキングした部品情報を資材管理サーバに登録して、出庫ラベルを発行、実際の部品に添付して製造ラインに送り込むという作業の通信部に5Gネットワークを活用しようという試み。従来はWi-Fiネットワークを使っていたソリューションだというが、その際は、アクセスポイント同士の干渉が生じ、使えないエリアが存在していたという。これを5Gネットワークに切り替えたところ、アクセスポイントが不要となり、エリア問題の解決を図れたという。
また、工場敷地内での活用のほか、同社では敷地外にも倉庫を部品の保管場所として借りているが、賃貸物件であるがゆえに、Wi-Fiの設置工事など、建屋に手を加える改修が難しかった問題も、5Gの活用として、倉庫の窓際にゲートウェイを1台設置するだけで、50m×40mの倉庫内の全域をカバーできるようになったとする。
2つ目のユースケースは、「大雨センサーと5Gを連携させた監視システムを構築」というもの。5Gのメリットである多接続を活用した取り組みで、気温、湿度、降雨状況などのセンサ情報と、映像による天候情報を把握することを可能とする取り組み。センサ部を防水ケース内に搭載したほか、USB経由でカメラをゲートウェイと接続。屋外環境という点を含めた、設置の仕方のデータ取りという側面を含めた実証実験だという。
3つ目のユースケースは「映像とAI処理による作業者作業分析システムを工場内に構築」で、こちらの取り組みのみ2023年6月より開始したものとなる。「作業者の作業改善点の抽出」と「作業スキルの数値的な把握を行い人員配置の効率化」を図ることを目的とした取り組みで、カメラを固定した位置に設置するのではなく、台車にUSB接続のカメラとゲートウェイを一緒に載せて、分析対象に都度、近づけて分析可能な環境を、業務用ハンディ無線機の組み立ておよび検査工程などを対象に構築。各工程の作業を録画、AIで分析を行い、作業の改善点を把握することを目指したものとなっている。
6月の実施開始以降、これまでに以下の3つの効果を確認したという。
- 作業工具の最適化:工具を使ったある1工程の作業時間が工具変更で約8秒短縮
- ライン作業員のスキル平準化:各作業員の時間バラツキを最適化しライン稼働効率up
- 作業員の作業時移動距離の問題点を発見:作業効率up・作業負担の低減
また、システムとしても従来の工場内の有線ネットワークから5Gに切り替えたことで工場内のネットワーク負荷を軽減されたというメリットも見いだせたとする。
ハード単体での販売ではなくソリューションとしての提供を模索
同社では今後、さまざまな産業分野で映像が重視されていく一方、高精細化によるネットワーク帯域や通信容量の増加が想定されるため、近未来の目標として「映像メディアと無線機の組み合わせによる通知・通報システムの提供」をコアコンピテンスとして掲げ、具体的な対象は未定としながらも、介護、警備、交通分野などでの活用を想定していると説明する。
また、ビジネスモデルとしては、単なるゲートウェイ単体の販売のみならず、KDDIのNVMOとしてのSIMの提供も開始。その先にはSIerとの提携となるが、ユーザーがやりたいことを実現するためのソリューションを1パッケージ化して提供していくことも考えているとする。
ソリューションということで、都度対応になるため、価格はオープンとしているが、ゲートウェイ単体のみで購入する場合は想定価格30万円としている。
リッチなハードウェア仕様で多様なニーズに対応
IP50Gは、同社の5Gゲートウェイシリーズの第1弾という位置づけになるという。そのため、スペックや搭載されているインタフェース、機能なども充実したものとなっている。プロセッサとしてはArmコアのものを採用。デュアルSIMを採用し、別々のキャリアのSIM(au/docomo)を挿すことで、どちらかに通信障害が発生してももう片方に切り替え、事業を継続できるような配慮もなされている。また、5GのみならずIEEE802.11ax、有線では2.5GBASE-Tなどにも対応。さらに、インタフェースとして、アナログの音声入出力にも対応しているほか、RS-485、汎用インタフェース、USC Type-C端子×2なども搭載しており、ユーザーのさまざまな使い方に応えることができるようになっている。加えて、ユーザーごとの特定機能を設定可能なファンクションキーも3つ用意されており、運用の際の手間軽減も図ることができるようになっている。
なお、同社ではさまざまなユーザーの声を聞きながら、第2弾以降の製品開発につなげていきたいとしているほか、当初はゲートウェイ単体での販売となるが、時期を見計らいながらソリューションの販売にこぎつけたいとしており、当面はゲートウェイ500台の販売を目指すとしている。