矢野経済研究所は12月5日、国内の生成AI(人工知能)関連事業者や民間企業などを対象に実施した生成AIの利用実態に関する調査結果を発表した。これによると、約1割の企業が既に生成AIを利用中であり、また約2割の企業が将来的な利用を検討しているという。

同調査は同社が2023年6月~8月にかけて国内民間企業(プロセス製造業、加工組立製造業、サービス業、流通業、金融業)538社を対象に実施したものであり、有効回答社数は538社。

生成AIについて「全社的に活用している」と回答した企業は1.3%、「一部の部署で活用している」は8.6%という結果だった。「現在は活用していないが、将来的に活用したいと考えている」が20.8%あり、意欲的な企業が一定数あることから、今後も利用する企業は順次増加していくと同社は見ている。

一方で、3.2%の企業は「活用を禁止している」と回答した。登場して間もない技術であり、利用方法が曖昧なことに加え、情報漏えいといったセキュリティについても十分な理解は浸透しておらず、こうした部分に懸念を抱く企業が一定程度存在するものと同社は考えている。

一般的に利用が進むことで理解が進んだり、社内利用におけるガイドラインなどの整備が行われていけば、これらの企業も利用を検討していく可能性はあると同社は見る。

  • 企業の生成AI利用状況 出典: 矢野経済研究所

現在、ベンダー各社ともユーザー企業から生成AIについて、試験的に利用したい意向はあるものの、その方法について不案内だという内容の問い合わせを多く受けているとのこと。

先端技術の理解を深めるという点では、まず利用してみることに価値があるとしながらも、企業が利用する以上、利益に結び付けなければ継続して利用する価値は失われると同社は指摘する。事業領域への活用方法がわからないという理由で、導入したユーザー企業が生成AIの利用を止めていくことを、同社は懸念している。

一方で、具体的な利用方法をイメージしているユーザー企業もあるという。ベンダー各社がこれらのユーザー企業と協力して生成AIの利用事例を事業化できれば、ビジネス利用できず取り止めたユーザー企業に対して、再び生成AIを導入する機会を提供できると、同社は指摘する。

かつてクラウド登場時に日本では普及が進まず、海外の企業に後れを取った経緯があるといい、生成AIではこのような事態にならないように早急に利用事例の創出が求められることから、ベンダー各社は具体的な利用イメージを持つユーザー企業と積極的に実証実験を行っているとのこと。

実際の利用について、生成AIは業務効率化といったコスト削減を目的とする利用が進められているものの、生成AIは多様な技術やサービスとの組み合わせが可能という。この技術力の高さを考慮して、コスト削減に加えて新しいイノベーション(革新的な活用方法や事例等)の創出といった利益創出にも活用されるべきだと同社は指摘する。

しかし、利益創出の利用方法はコスト削減を目的とした導入よりも範囲が広く、具体化が難しいため、まずはコスト削減を目的とした利用でノウハウを蓄積していき、利益創出に移行していく流れになると、同社は考えている。

生成AIは今後、多様なサービスの中核技術となって組み込まれていくと同社は見る。生成AIがサービス価値を高める存在として扱われることになれば、生成AIのモデルそのもので対価を得るというのは難しくなるため、生成AIを有することで実現できる価値に対して対価を得る仕組みにしていく必要があるという。

生成AIを利用するユーザー企業(顧客)、あるいは社会全体への影響を踏まえ、適切な価値体系を構築する必要があると、同社は考えている。