米IBMは12月4日(現地時間)、米国ニューヨークで開催される年次イベント「IBM Quantum Summit」で133量子ビットのプロセッサ「IBM Quantum Heron」を発表した。同プロセッサは新しいアーキテクチャを備えたユーティリティスケール(実用規模)の量子プロセッサで、これまでのIBM Quantumプロセッサの中で最も高い性能と低いエラー率を実現しているという。
新プロセッサに加え、同社初のモジュール式量子コンピューターで量子スーパーコンピューティングアーキテクチャの基礎となる「IBM Quantum System Two」を発表。最初のIBM Quantum System Twoは、ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツに設置され、3つのIBM Heronプロセッサとサポート用の制御電子機器を搭載して稼働を開始した。
これにより、IBM Quantumの開発ロードマップを2033年まで拡張し、ゲート操作の質を向上させる新たな目標を掲げ、実行可能な量子回路のサイズを拡大するとともに、量子コンピューティングの可能性を大規模に実現することが可能になるとのことだ。
同社は今年初めに127量子ビットのプロセッサ「IBM Quantum Eagle」で化学、物理学、材料といった分野において、古典的な量子力学の総当たりシミュレーションを超えた、ユーティリティスケールな問題を探求する科学的ツールとしての役割を果たすことを実証。
実証実験以来、同社と米エネルギー省アルゴンヌ国立研究所、東京大学、ワシントン大学、ケルン大学、ハーバード大学、Qedma、Algorithmiq、カリフォルニア大学バークレー校、Q-CTRL、Fundacion Ikerbasque、Donostia International Physics Center、バスク大学など、主要な研究者や科学者、エンジニアがユーティリティスケールの量子コンピューティングの実証実験を拡大し、未知の計算領域を探索する上での価値を確認しているという。
これには、クラウド上で12月4日(米国時間)から利用可能になったIBM Quantum Heronプロセッサ上で実行されている実験も含まれる。IBM Heronはエラー率を改善した高性能プロセッサの第1号であり、IBM Eagleプロセッサが記録したこれまでの最高記録を5倍上回る性能を提供し、2024年中に実用規模のシステム群に追加を予定している。
また、IBM Quantum System Twoは同社の次世代量子コンピューティングシステムアーキテクチャの基盤となり、スケーラブルな極低温インフラストラクチャと、モジュール式の量子ビット制御機器を備えた古典的なランタイムサーバを組み合わせている。
一連の取り組みに伴い、今後10年間の開発ロードマップとして、IBM Quantum System TwoにIBMの将来世代の量子プロセッサを搭載することも計画しているほか、将来のプロセッサは処理できるワークロードの複雑さと規模を拡張できるよう、実行できるゲート操作の質を徐々に向上させていくことを狙っている。
さらに、IBMは新世代のソフトウェアスタックに関する計画の詳細も発表しており、量子コンピュータを扱うためのオープンソースSDK(Software Development Kit)「Qiskit 1.0」を2024年2月にリリースを予定している。
加えて、量子コンピューター開発の民主化を目的に「Qiskit Patterns」を発表。量子開発者が簡単にコードを作成できる仕組みとして機能するものとなる。古典的な問題をマッピングし、Qiskitを使用して量子回路に最適化することで、コンテナ型量子コンピューティングサービス、プログラミングモデル「Qiskit Runtime」を使用して回路を実行し、結果を処理する、という一連のツール群で構成されている。
Qiskit Patternsと、回路ニッティングの分解を行い、量子回路を並列実行し、古典計算で回路を再構築して最終的な結果を得る「Quantum Serverless」を組み合わせることで、クラウドやオンプレミスを問わず、さまざまな環境で古典計算と量子計算を統合したワークフローを構築、展開、実行できるようになるという。
そのほか、AIプラットフォーム「IBM watsonx」を通じて、量子コード・プログラミング向けに生成AIを利用できるよう開発。watsonxを通じて、利用可能な生成AIを統合し、Qiskitの量子コード開発の自動化を予定している。