東京都市大学(都市大)は12月1日、既存の半導体技術のプロセッサと比較して約7.8万倍、従来の超伝導技術を使用したシステムと比較しても100倍以上という、桁違いに優れたエネルギー効率の断熱超伝導AIプロセッサ「SupeRBNN」(コード名)を開発したことを発表した。
同成果は、都市大 情報工学部 情報科学科の陳オリビア准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、2023年10月30日にカナダ・トロントで開催されたコンピュータアーキテクチャ分野の国際会議「MICRO 2023」にて発表された。
半導体の性能向上の法則として知られる「ムーアの法則」は、半導体トランジスタの集積率向上によって実現されているが、その限界が見えつつある。今後10年以内には、デバイスの製造に関連するトポロジカルや電気的ないくつかの制約が顕在化するとされ、最終的には集積率の向上において重要な微細化が物理的な限界(原子1個以上に細くすることはできない)に直面すると予想されている。
さらに、社会的に処理する情報量が増え続けている結果、コンピュータの消費電力の増大と、その結果生じるCO2の大量排出も問題になっている。データセンターは現代の情報社会におけるインフラとして必要不可欠な存在だが、その電力消費量はすでに1台あたり100メガワット(MW)を超えており、それは小型火力発電所1基分に相当、世界のエネルギー需要の約1~2%を占めるという事態に至っている。ちなみに科学技術振興機構(JST) 低炭素社会戦略センターによれば、現在のCMOS計算基盤がノイマン型の設計に依存し続ける場合、2050年までにはデータセンターの電力消費が利用可能な電力供給を超えるという予測も立てられているという。
つまり、このままのCMOS基盤を基にした技術進化のみでは大幅な計算性能の向上は望めず、さらに環境問題的な観点からも望まれない状況が到来することになり、AIやブロックチェーンなどを中心とした未来の持続可能な社会システムの構築から遠ざかってしまう恐れがあるという。
このことから、脱炭素社会の実現に向けて、従来の演算アルゴリズム、アーキテクチャ、デバイス・材料にとらわれない、既存の技術体系を破壊するような新たなコンピューティング技術を探求する時期が到来している。そこで研究チームは今回、エネルギー効率の高いAI情報処理プロセッサ(機械学習向けハードウェア)の開発を試みたという。
今回開発されたAIプロセッサのSupeRBNNは、従来の超伝導技術を使用したシステムと比較しても100倍以上という、これまで国内外で開発された中でエネルギー効率が最高レベルのプロセッサである。同プロセッサは、バイナリニューラルネットワークとインメモリ計算アーキテクチャを、極めてエネルギー効率の高い断熱超伝導デバイスに導入することにより、わずかなエネルギーで大量のデータを迅速かつ正確に処理することを実現したとのこと。その計算効率は、10PetaOPS/W(1ワットあたり1京回演算)級としている。
またSupeRBNNは、従来の半導体メモリであるReRAMベースのプロセッサと比較して、約7.8万倍のエネルギー効率を誇るとする。さらに、既存の超伝導技術を使用したシステムと比較しても、少なくとも100倍以上のエネルギー効率の改善が実現されたとした。
これまで超伝導回路の開発は、大半が演算レベルの実験的な試みにとどまっていたのに対して、今回の研究では、AIデータ処理という実用的な目標を掲げたうえでその技術をシステム全体に拡大適用し、超伝導コンピュータの新しい可能性を提示したとする。さらに特筆すべきは、超伝導デバイス固有の確率的動作を活かした計算モデルを策定し、それに適した回路設計、アーキテクチャ開発、そしてアルゴリズムの最適化を全面的に行った点だとし、これは国際的に見ても画期的なアプローチとして評価されているという。
ムーアの法則に代わる新たな技術革新の潮流が求められる現在、今回のSupeRBNNフレームワークはさらに、AIの学習プロセスを最適化し、同時に超伝導デバイスの性能限界を突破できるハードウェアアーキテクチャを提案することで、環境への負荷を最小限に抑えつつ、ポストムーア時代のAI性能の最大化に貢献したとする。
研究チームは、今回の研究で開発されたSupeRBNNに量子計算機などの最新コンピューティング技術を融合させることで、科学的発見を加速させ、気候変動予測、医薬品設計、脳型機能マッピング、革新的なスマートマテリアルの開発など、新しい分野の開拓と新展開を目指すとしている。