京都大学(京大)は12月1日、肉芽腫(にくげしゅ)性疾患の原因を明らかにするために、その代表である「サルコイドーシス」患者の皮膚病変を「1細胞RNAシークエンス」で解析した結果、代謝経路「ペントースリン酸回路」が亢進しているマクロファージ(白血球の一種)が肉芽腫を作っていることを突き止めたことを発表した。

さらに、同回路を阻害することにより、肉芽腫形成が試験管内でもマウスの肉芽腫モデルでも阻害され、治療効果があることが証明されたことも併せて報告した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大大学院 医学研究科皮膚科学の椛島健治教授、京大大学院 先端医療基盤共同研究講座 皮膚科兼任の中溝聡特定講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、基礎および臨床生物医学に関する全般を扱う学術誌「Journal of Clinical Investigation」に掲載された。

異物や病原体が体内に入ると、通常は免疫機構によって排除される。しかし、排除できない異物や病原体が体内に入ってきた時は、人体は肉芽腫という免疫細胞の壁を異物や病原体の周りに作り、隔離を行う。

一方、肺や眼、リンパ節、皮膚、心臓など、さまざまな臓器に小さな肉芽腫が形成される疾患のサルコイドーシスや、口腔から肛門までの消化管のさまざまな部位に炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こる疾患の「クローン病」といった肉芽腫性疾患と呼ばれる病気では、異物や病原体がないにも関わらず、体内に肉芽腫が形成されてしまうことで、失明、不整脈、肺線維症、下痢などの症状が引き起こされる。現在では肉芽腫性疾患の原因は未解明であり、治療法も対症療法しか存在していない。そこで研究チームは今回、サルコイドーシスの肉芽腫を解析することで、肉芽腫性疾患の原因の解明を試みたという。

今回の研究では、サルコイドーシス患者の皮膚病変に対し、1細胞RNAシークエンスという手法を用いた解析が行われた。1細胞RNAシークエンスとは、次世代シーケンサーを用いて個々の細胞が保持している遺伝子を質的・量的に網羅的に調べる手法である。

その結果、ペントースリン酸回路が亢進しているマクロファージが肉芽腫を作っていること、そのマクロファージは皮膚だけでなく全身の病変にいること、さらにサルコイドーシス以外の肉芽腫性疾患でも存在することが解明された。なおペントースリン酸回路とは、「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸」(NADPH)やデオキシリボース、リボースなどの核酸の生合成に不可欠な糖を含む各種ペントースの産生に関与する糖の代謝経路の1つだ。

さらに研究チームは、ペントースリン酸回路を阻害することにより、肉芽腫形成が試験管内でもマウスの肉芽腫モデルでも阻害され、治療効果があることが証明されたとする。以上の結果から、ペントースリン酸回路を標的とすることにより、肉芽腫性疾患を治療できる可能性が示唆されたとした。

研究チームは現在、さまざまな製薬会社と連絡を取り、今回の研究結果をもとにした新たな薬剤の開発に関する話し合いを進めているという。また日本医療研究開発機構の協力のもと、さらなる治療標的の同定を行うとしている。