名古屋工業大学(名工大)、東洋紡、東洋紡エムシーの3者は11月29日、電子材料の接着剤用途向けに、再成形性・自己接着性・自己修復性などを有する高機能なポリマーが実現できるとして注目される架橋樹脂「ビトリマー」(FONDS ESPCI PARIS製)を応用することで、溶剤フリーで常温流通(輸送・保管)を可能にした環境配慮型の「ポリエステル系高耐熱性接着シート」(以下「新接着シート」)の新たな開発に貢献したことを共同で発表した。
今回の成果は、名工大大学院 工学研究科 工学専攻(生命・応用化学領域)の林幹大助教らに加え、東洋紡、東洋紡エムシーが参加した共同研究チームによるもの。詳細については、11月30日から12月1日まで名古屋国際会議場で開催中の「第32回ポリマー材料フォーラム」にてポスター発表が行われる。
フレキシブルプリント基板などで電子部品の接着に用いられる高耐熱接着シートは、データ通信の高速化、自動車の電装・電動化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展などを背景とした電子部品の搭載点数増加や回路の高集積化に伴い、ますます需要が拡大しているという。近年では環境負荷低減のため、溶剤を含まない熱硬化型の接着シートが求められているが、常温で硬化するのを避けるために冷蔵での保管や輸送が必要となるほか、接着シートを貼り合わせた後の被着体との固定に、一定時間の加熱を伴う熱架橋処理を要するなどの課題が残されていたとする。
そうした中、名工大の林助教らの研究チームと東洋紡グループは2019年から共同研究をスタート。林助教らの結合交換型架橋樹脂(ビトリマー)の基礎技術を、東洋紡グループが長年培ってきた樹脂の設計・重合というコア技術と組み合わせることで、溶剤を含まない熱硬化型の接着シートの研究開発が進められた。
ビトリマーは、フランスのL. Leibler氏らにより2011年に開発・定義・命名された、樹脂の構造の一部に「結合交換性動的共有結合」を持つ新しい架橋樹脂のことだ。結合交換性動的共有結合とは、熱や光などの外部刺激により交換反応が起きる共有結合の一種で、分子網目構造中に導入すると、刺激により架橋点の組み換えが生じ、分子運動性が増加するという特徴がある。その性質を利用し、加熱や加圧により二次成形が可能という優れた点を活かすことで、再成形性・自己接着性・自己修復性などを有する高機能なポリマーが実現できるとして期待されている。
そして今回は共同研究の成果として、東洋紡グループが電子材料向けの接着剤用途などで展開する共重合ポリエステル樹脂「バイロン」にビトリマー特有の結合交換部位を導入することに成功。常温流通可能な無溶剤シート型接着剤の開発に至ったとしている。
従来、溶剤を含まない半硬化型の接着シートは、課題として上述したように、常温環境下では徐々に架橋(物理的・化学的な反応でポリマー同士が3次元網目構造となり、強度・耐熱性が向上)が進行して硬化してしまうため、輸送や保管の際に冷蔵による低温環境の維持が必要だった。また接着時に完全な架橋構造を得るため、加工工程において一定時間の加熱処理(一般的に150℃で4時間程度)も必要とされていたという。
それに対し、ビトリマーを応用した新接着シートは製造時点ですでに架橋反応が完了しているため、常温環境下で架橋による硬化が進む心配がないうえ、短時間の加熱・加圧処理を行うだけで寸法を保持したまま電子材料を接着できることから、長時間の熱架橋処理も不要とする。また、シート状で溶剤を含まないことからVOC(揮発性有機化合物)の削減に寄与するとともに、熱架橋工程を省けることで生産工程の短縮や省エネルギー化にも貢献するとのことだ。
なお新接着シートは、東洋紡エムシーが2024年前半を目標にサンプル提供を開始し、そして製造販売もスタートさせる予定だという。3者による共同研究チームは、今後も高機能な架橋樹脂のビトリマーを応用した製品の研究・開発に注力し、環境配慮型製品の提供を通じて持続可能な社会の実現に貢献できるよう努めていくとしている。