東北大学は11月28日、ハイフレーム超音波撮像技術を用いて、排尿中の尿道内の流路変形と内部の流れベクトル分布を1秒あたり1000枚以上の高時間分解能で計測するイメージングシステムを開発し、前立腺肥大症などにより変性した尿道内部における詳細な尿の流れの可視化に成功したことを発表した。
同成果は、東北大 学際科学フロンティア研究所の石井琢郎助教、獨協医科大学病院 排泄機能センターの山西友典教授(研究当時)、東北大大学院 医工学研究科の西條芳文教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、医学物理学全般を扱う学術誌「Medical Physics」に掲載された。
前立腺肥大などの加齢に伴う尿道の変性は「排尿症状」(尿勢低下や排尿途絶・遅延など正常な排尿が困難な状態の総称)の主要因の1つであり、その慢性化は患者のQOL低下につながるため、効果的な診断治療技術が強く求められている。現在それらの治療手段は多様化しているものの、その一方で客観的な下部尿路の評価は膀胱内圧の計測などによる間接的な方法に限られており、尿道内腔状態が尿の排出にどのような影響を与えているのかを詳細に評価する手段が存在していないことが大きな課題となっていた。そこで研究チームは今回、排尿症状を有する尿道内において、どのような流れが生じているのか明らかにすることを目的とし、尿道内における排尿流を詳細に可視化する技術の開発を目指したという。
尿道は血管とは異なり、排尿中にのみ展開し流路を形成することが特徴だ。また流体シミュレーションによる先行研究から、前立腺肥大症などにより狭小化した尿道内ではジェット流や渦流など複雑な流れパターンの発生が予測されていた。こうした排尿中の尿道内流れを詳細に観察するためには、“臓器の大きな変形に伴う流れの変化を捉えるための時間分解能を有すること”、そして“複雑な流れパターンを可視化するための流れの方向と速さの分布の定量的計測が可能”という2点を兼ね備えたイメージングシステムを実現する必要があるとする。
今回の研究では、東北大の石井助教らが開発した超音波イメージング法「Contrast-enhanced Urodynamic Vector Projectile Imaging(CE-UroVPI)」を用いて、新たに「経直腸超音波イメージングシステム」(以下、新システム)を開発。新システムは、ハイフレームレート超音波撮像法という技術に基づき、超音波イメージングにより白黒で表現される臓器の断層であるB-mode動画と流れベクトル動画を、1250画像/秒という高いフレームレートで同時に取得することが可能だという。これらの画像を合成し可視化することで、排尿中の尿道において、いつ、どこで、どのような流れが生じているのか、尿道の臓器運動と尿の流れの時間・空間変動を明らかにすることを目指したとする。
まず研究チームは、新システムを用いて排尿症状を有する男性被験者に対する排尿流イメージングを実施し、排尿中のさまざまなフェーズにおける前立腺部尿道の臓器運動と内部流れの変動の観測を行った。その結果、排尿開始期と排尿終了期において、約1秒間の間に流路の拡張・収縮、流路角度の変化、流れの発達や停止などのダイナミクスが可視化されたとのこと。特に排尿終了期では、外尿道括約筋の運動によって、尿道の収縮が出口側から膀胱側に伝搬し、この運動によって尿が膀胱側に飲み込まれるように逆流していることが解明された。この収縮伝搬は約100ミリ秒という短時間の現象であり、新システムが有する高ハイフレームレート撮像によって詳細な運動の解析が初めて可能となったとしている。
さらに、排尿症状を有する被験者の中でも特に尿道内に狭窄を有する場合は、尿道内に渦流やジェット流が生じていることも確認された。流体シミュレーションによる先行研究においても、このような渦流の発生は、尿道内部における流体エネルギーの損失に寄与し、体外へのスムーズな排尿を阻害する要因として示唆されているといい、今回の研究においても、尿道内の一部が展開しにくい「静的な狭窄」や、一度展開した尿道が部分的に閉塞してしまう「動的な狭窄」など、臓器の形状や運動の異常が尿道内部の流れを乱し、効率的な液体輸送に影響を与えていることが、排出中の流れの詳細な観察により示唆されたとする。
研究チームは、今回開発された新しいイメージング技術により、尿道のさまざまな形態や運動性状と尿道内排尿流の相互作用の詳細な観察を実現し、患者固有の排尿症状メカニズムの解明を可能にすることが期待されるとしている。