和歌山県の伝統食「紀州なれ寿司」からビフィズス菌を分離することに、岐阜大学応用生物科学部の岩橋均教授(応用微生物学)が成功した。日本の伝統的自然発酵食品には主に乳酸菌や納豆の菌などが作用していると考えられてきたが、ビフィズス菌も入っていることが分かった。岩橋教授は「今回の分離した菌を基に、日本製のチーズやヨーグルト作りに挑戦したい」と話している。
和歌山県で800年以上食されている「紀州なれ寿司」は、サバを開いて1ヶ月塩漬けにしたあと、塩抜きをして、ダンチク(あせ)などの葉っぱに巻いて樽の中で発酵させたもの。発酵が進むほど甘みのあるチーズのような味わいになるとされ、秋の祭りの時期に振る舞われてきた。滋賀の「鮒(ふな)寿司」など地域によっては違う魚で作られることもある。
岩橋教授は和歌山県出身。和歌山市にある老舗寿司店の「弥助寿司」からなれ寿司を取り寄せ、次世代シーケンサーで微生物群を解析した。なれ寿司を作った直後にはビフィズス菌は存在しないが、和歌山の方言で「なれた」頃、つまり熟成が進んだ頃にビフィズス菌が出現することが分かった。このビフィズス菌は他の乳酸菌と共生している。しかし、嫌気性であることや、共生する他の乳酸菌群に比べて増殖速度が遅いことなどから分離が難しかった。
約2年かけ、抗生物質を用いるなどの様々な方法を試したところ、シャーレを30~37度の酸素のない環境で1週間置くという条件下で分離に成功した。分離した後は液体培地で増殖することも確認できた。ビフィズス菌は一度分離に成功すれば、増殖させるのは比較的容易だという。
岩橋教授はこのビフィズス菌を「ビフィドバクテリウム サイクロアエロフィルム ヤスケ株」と名付けた。ヤスケ株は広く使ってほしいとの考えからあえて特許出願せず、製品評価技術基盤機構のバイオテクノロジーセンターに登録を申請した。同機構によると、現在登録の準備中で、完了すれば誰でも使うことができる。現在、岩橋教授は増殖させたヤスケ株を用いた国産チーズやヨーグルトの製品化への試作に取り組んでおり、協力できる機関を探しているところだ。
ヤスケ株は名前の通り、弥助寿司で作ったなれ寿司からしか検出できてない。岩橋教授は「ビフィズス菌は葉っぱ由来ではなく魚由来という仮説を立てていたものの、弥助寿司のなれ寿司以外から分離できないので、弥助寿司の店舗の小屋に住み着いているのかもしれない」と話している。今後、別のなれ寿司からヤスケ株が見つけられるかどうか、実験を重ねるとしている。研究の成果は岐阜大学が10月18日に発表した。
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